「佳作なれども、観客少なし。残念である。」大地と白い雲 ハルヒマンさんの映画レビュー(感想・評価)
佳作なれども、観客少なし。残念である。
評価が低かったのでどうかなと思いましたが、観てみると大変よい作品でした。題材は特に新しいものではありませんが、古い世界と新しい世界との対比が、風景、住民の生活、夫婦間の葛藤などを通じて上手く描かれていました。周知の事実ですが、中国では開放路線によって市場経済が急激に拡大し周辺部まで都市化が進みました。それによって遊牧民の伝統的生活にも変化が及びます。新しいものに魅力を感じる夫と伝統的なものに安心を覚える妻との葛藤がメインの題材です。そのなかに、牧草を他の遊牧民の羊に食べられて怒る青年の態度に、共同体意識から市場経済的価値観への変化が表現されるなど、工夫が凝らされていると思いました。日本で言うなら、漁村に巨大な原発施設が建設され、漁師の息子がそこに勤め始める。一方で漁業を続ける青年もいる。村祭りで二人が一緒になる。そして考え方の違いによってぶつかり、喧嘩になる。そんな映画があったような気がします。実際にあったかどうかは確認していませんが、この手の映画は、高度成長期に多く作られたのではないでしょうか。最後のシーンで、主人公である夫が草原を移動してきて、目の前に巨大なビルが立ち並ぶ都市が現れます。あの威圧感が締めくくりとしてのメッセージだと思います。住民を翻弄する国家プロジェクトへのささやかな抵抗の表現ではないかと思いました。
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