劇場公開日 2020年12月4日

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「後味が素晴らしい(これは戦争だ!)」ミセス・ノイズィ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5後味が素晴らしい(これは戦争だ!)

2021年3月22日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

知的

これは戦争だ!2人の女優の。
漫画・ガラスの仮面の作中劇
「ふたりの王女」を思い出した。
本来のヒロインは真紀だ。しかし、観ていてなかなか真紀に共感出来ない。むしろ美和子の方が真っ当だと感じてくる。
そのうち、これは「美和子・真紀・直哉」の、三世代のジェネレーションギャップも描いていると気付く。
観客の年齢やこれまでの生き様によって、三者の誰に感情移入しやすいかも違ってくるだろう。
また、真紀に世代は近いが客観的で多面的な視野をもつ人物として、夫の祐一や担当編集者も配置されている。

終盤、真紀が心から素直に謝罪した時、それまで真紀サイド・美和子サイドいずれを応援していようとも、二人のヒロインに好感を抱く事が出来る。
それは演じている篠原ゆき子と大高洋子が実に見事に、ここまでのバランスを維持してきたからだ。
なるほど、序盤思ったほど真紀に肩入れ出来ず、むしろ否定的感情を抱いてしまったのも、篠原ゆき子の演技のなせる技だったか!
大高のパワフルさに負けないくらいの「微妙に嫌なオンナ感」を出さなければ「平凡な主人公」で終わってしまい最後のカタルシスで一気に挽回する事が出来ないのだ!

これは驚いた!篠原、大高、いずれの演技が優ってしまってもこの作品は上手くいかない。つまり2人には丁々発止の真剣勝負で均衡を保ち続けて貰わねばならない。そうしなければ簡単にヒロインの座はいずれか片方のものとなってしまうのだ!
難しいのは相手に非があるように見える場面こそ、自分にも非はあるように見せる必要がある事だ。更にその上で「でも、これって別に悪くはないんじゃない?」とも感じさせねばならない。
演じきった2人は見事としか言いようがない。

脚本も本当に素晴らしい!
タイトルから例の騒音障害事件をモチーフにしたとわかるのでストーリーの見当はつく。
「ある時点」から多視点になる事も、最後に「あの人物」が助けに入るであろう事も、最初っから予測がつく。
それなのに、これだけストーリー展開が読めるにも関わらず、味付けの予測はつかないんだなぁ・・・!
例えば「この材料ならハンバーグを作るだろうな」とはわかっているのに、なかなかオーソドックスには進まないというか、どこでどんな下拵えを仕込んでくるか、どんなスパイスや調味料を使うのか、常に選択の余地を絶妙に残している。
どの場面からでも、コメディにも、ラブロマンスにも、社会派ドキュメンタリーにも、サイコスリラーにも、サスペンスにも、ついでにホラーにだってスムーズに持っていけちゃうんだなぁ。

しかも、無駄なシーンの削ぎ落としも凄い。ディズニーアニメの大作では絵コンテ、ビジュアルコンテの段階でボイス録音まで行われ、何度もストーリーについてディスカッションが行われる。描かなくても観客の推測で話が通じるシーンは削ぎ落とされ、最高のテンポで物語が展開出来るようにスリム化される。
同様に本作も実によく練り上げられ、削ぎ落とされていると感じた。
それは、監督と各演者がそれぞれの役どころを充分深く掘り下げているからこそ可能になるのだろう。
完成された映像には映し出されない削ぎ落とされたシーンや、役者の皆さんがどれだけ本編と関係のないエチュードを繰り返されたのかと感心する。

その結果なのか「泣けた!」
元々涙脆い方ではあるが、近年は映画を観て泣いた事がなかったのに、数年ぶりに本当に「泣けた」
まさか、この作品に泣かされるとは思いもしなかった(笑)

実に上手いんだなぁ!こんな設定、いくらでもドロドログチャグチャの救いがない作品に仕立てられるのに、本作は驚くほどに後味が良かった!
ちゃあんとね。観客の非難感情の矛先が「あるもの」にすり替わるように出来ているの。だから誰も傷つかない。
ハートウォーミングなヒューマンドラマのハッピーエンドに帰結する。

よもや、ここまでのシナリオ、ここまでの作品だとは思わなかった。
嬉しい誤算で楽しませてくれた天野千尋監督と俳優陣に敬意を表したい。
天野監督、これから益々「要!チェック」だ。

pipi
NOBUさんのコメント
2021年6月26日

おはようございます。
 昨日、観賞した映画で、”ヒューマノイド”が「ガラスの仮面」を山積みにして、”ハハハ”と無機質な声で笑っていましたよ。
 今作、有難い事に私のレビューに共感を頂いたので、久方振りにレビューを読み返していました。今作は、ビックリする程面白かったなあ・・。
 で、pipiさんのレビューを再読しました。

NOBU
カールⅢ世さんのコメント
2021年3月22日

コメント、フォローありがとうございました。この映画、ロングランですね。ガラスの仮面もすごいロングラン。完結しました? 一昨年にNHKで三上博史との対談番組で美内すずえさんがでていて録画しましたw

カールⅢ世
talismanさんのコメント
2021年3月22日

おお!素晴らしいレビュー!確かに「ガラスの仮面」!納得です。

talisman