「都合」ミセス・ノイズィ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
都合
見れて良かった。
SNSが猛威を振るう現代にこそ必要な作品だと思える。むしろソレがもたらした現代の病巣を描いているかのようだった。
俺はSNSこそしてないが小説家と同じ過ちを犯してないだろうかと、自身の内側に問いかける。
「人は見たいものしか見ない」と言ったのは誰だったろうか?
確かに隣人の行動は褒められたものではないが、他人様には他人様の都合がある。その兼ね合い。折り合い。…頭がおかしいと断罪する程、よく知らないだろうとも思う。だけど世間の風潮としては「自分を守れ」の一点張りだ。そうやって知らず知らずの内に作られた牢獄の輪郭を見るようでもあった。
作品を見て思うのは「常識」の所在など主観で変わるって事だった。ファーストコンタクトの双方の認識がまさにソレで…主観により捻れた事実の成れの果てだ。
というか…朝の6時に小説書いてるお前も大概非常識だ。だが本人は気づかない。
自分に必要な事は「正しい事」ではないのだ。
歩きスマホもその一例で…。
必要があって見てる。
だが、あなただけが歩いているわけではない。
それを心の狭い俺なんかは思う。
「なんだよ?お前の為に道空けろってのか?」
例えば、意固地になってワザとぶつかったとする。
「あ、すいません」
が返ってきたなら、こちらも謝れるだろう。
だが、「痛っ!どこ見てんのよ!」とか「前見て歩けよ!」なんて言われた日にゃ…「見てないのは、てめえの方だろうがあっ!!」なんて事になる。
ワザとぶつかった俺は悪い。悪意があるからだ。
だけど、そもそも人混みで周りを見てないあなたは、もっと悪い。そおいう事なのだ。
自分の事を棚に上げて、あまつさえ讃えてるような状況だ。
…現代では頻繁にそおいう事が起こる。
実の所、綱渡りのような毎日だ。些細な事であらぬ方向に転がって、勝手に拗れていく。
ほぼほぼ表層だけを切り取って公開する風潮にも問題はあるのだが、ソレを見て笑ってる大衆のなんと見苦しい事か…品性のかけらもない。この辺りは予想だにしなかったバラエティ番組の余波にも思える。
画面越しに起こる事は、画面の中だけでは収まりきらなくなってる。この奔流を変える事はできるのだろうか?画面の中でイジられる人達は、イジられるのが仕事なのだ。同じクラスの同級生は、イジられるのが仕事ではないのだよ。
「冗談やん。マジになんなよ、寒いなあ」
…何故に自分の価値観の中に友達を閉じ込めるのだろうか?
作中、飛び降りたおじさんは一命をとりとめたけど、亡くなってたらどうするの?
多分、どうもしないよね。
次から次へと新しい餌は撒かれ、自分が加担した事実も忘れていくだけなのだろう。
おばさんは言う「狂ってるのは世間だ」
そうなのだと思う。
ただ、だからと言って、スーパーの店員に悪態をつく権利はないのだ。衛生上の問題とか、スーパー側にはスーパー側で山積みなのだ。
家に持ってかえって漬物にすれば済む話だ。
勿体ないと皆で分ければいい話なのだ。
それぞれの都合が交錯する物語で、決して他人事ではない物語だった。
俺自身、安易にその連鎖に組み込まれる要因はいっぱいあるだろう。自分本位な風潮が蔓延してる現代だからこそ、生まれた作品だと思う。
地上波で流れる事はあるのかな?
コイツを流す局があるなら、まだ救いもあるんだろう…だけど「視聴率取れないから論外」って却下されるのが関の山だろう。
…情けない。
作品としては、とにかく脚本が秀逸だった。
深読みすればするほど肉厚な台詞のなんと多い事か。
それらの台詞を発する役の立場も相まって、痛烈な風刺がこれでもかと盛り込まれてる。
演出も良くて、娘の誕生日の空気感なんかは抜群だ。何より「おばさん」のキャスティングは絶妙。
「撮るんじゃないわよ!!」とカメラに怒鳴り散らすおばさんのなんと爽快な事か。
出演者達から醸し出されるメッセージも豊富で、素晴らしい。
こういう作品こそメディアで流せ。
広く世に知らしめるに足る作品だった。