「字幕には不向きな情報量、配信向けかも」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0字幕には不向きな情報量、配信向けかも

2022年2月3日
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鑑賞方法:映画館

 宣伝文を見ると、編集長が亡くなり廃刊が決まった雑誌編集部の群像劇のようなイメージだが、実際はその設定は包み紙のようなものだ。中には入れ子構造のように架空の街を紹介するレポートと、芸術・革命・美食に事寄せた3つの物語が入っている。編集部内部の物語はほぼなく、構成自体が完全に雑誌最終号を順繰りにめくっていく体裁だ。
 そして、3つの物語が語られる最中に、それぞれの話の中で時間が頻繁に前後し、数年後に話が飛んだり、さらに劇中劇があったりする。台詞が多いのでただでさえ字幕の情報量が多いところに、画面が二分割されてそれぞれの描写に説明がついたりする。
 わんこそば状態で全体の物語構造と、各話ごとにその都度一から登場人物や設定を把握していく必要があり、それぞれ複雑な話ではないが早いテンポで進むので忙しい。見ているとなかなか愉快なシーンもあって、ここは笑うところなんだなと頭では思うのだが、正直あまり笑う余裕がなかった。退屈ではなく、脳の疲労によって眠気が差す瞬間があった。字幕に頼らなくてすむ英語のヒアリング力があれば、感想自体が変わってきそうだ。
 さまざまな話が終盤で集約されることを少し期待したが、それもなかった。
 楽しめる人を選ぶ映画、そして楽しめなかったと言いづらい類の映画だと感じた。通には分かる的空気感というか……。
 それとアンダーソン監督の作品は初めて見たが、お気に入り俳優を毎回のように使うことや、自分の好みと小ネタを詰め込む傾向はアメリカ版三谷幸喜か?と思った(好きな人には雑な括りでしょう、すみません)。

 映像はさまざまな表現方法を駆使していて、色合いも構図もいちいちお洒落。ストップモーション(スチールではなくだるまさんがころんだ状態の)、画面分割、モノクロとカラーの交錯、舞台的演出、クライマックスでのアニメーションなどなど。凝った絵本を読むような楽しさがある。
 俳優も豪華。目で楽しむと割り切れば、結構お腹いっぱいになれる。全体を通して、監督の表面的ではないフランス愛も感じた。愛ゆえにおちょくってるところも含めて。そういったところはよかった。

 ただ、個人的には疲れさせる作品という印象が先に立った。
 配信されて、気になるシーンで一時停止しながら見られる環境になれば、もう少し評価が上がるかも知れない。あるいは、吹替の方が情報量をフォロー出来るかも。

ニコ