「見ているだけで笑顔になる。触れてるだけで幸せになる。」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
見ているだけで笑顔になる。触れてるだけで幸せになる。
子供の頃、購入したての絵本や雑誌を包から取り出し、ドキドキしながら1ページ目をめくった時の”あの感じ”。印刷液の独特の匂い、おもちゃ箱をひっくり返したみたいなビジュアル、そして個性あふれる書き手の筆致までもが、目の前にありありと迫ってくるかのようだ。これはウェス・アンダーソンから雑誌文化やフランス文化へ向けたラブレター。と言っても、やっぱりアンダーソンのことなので、発想のアウトプットは一筋縄ではいかない。彼が青年期に刺激を受けた「ニューヨーカー」誌が発想の源になっているそうだが、そこにヌーヴェル・ヴァーグや仏ノワール映画を掛け合わせ、色とりどりのショートストーリー形式で展開する様は、雑誌特有の「どこでもお好きな箇所からお読みください」的であり、一品一品に心を尽くしたフルコース的でもあり。それでいてなぜか「異邦人」「芸術」「死」という要素がうっすら余韻を漂わせる後味にも惹かれるものがあった。
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