「【”東京オリンピックの議論も必要だが、その前に”未だ終わっていない事”があるだろう!”と言う激しい怒りを静謐で、哀しきトーンで描いた連作。】」BOLT NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”東京オリンピックの議論も必要だが、その前に”未だ終わっていない事”があるだろう!”と言う激しい怒りを静謐で、哀しきトーンで描いた連作。】
■作品は、episode1 ~3の短編で構成されている。
だが、そこでは一貫してある問題が提起されている。
それは、【福島第一原発事故処理は、全然収束していない】
という事である。
1.episode1 『BOLT』
・被災直後の福島第一原発から流出する汚染水を食い止めようとする作業員たちを描く。只。このパートは突っ込みどころ満載で、永瀬正敏、佐野史郎たちの演技がヘルメット越しという事もあり、伝わって来ない。
あのチープなボルトを必死に閉めようとするシーンは、原発施設の稚拙さを揶揄したものなのだろうか?
2.episode2 『LIFE』
・3作の中で、最も良かった作品。
放射能汚染により住めなくなった地域に最後まで住んでいたお爺さんが亡くなり、彼の家の清掃をする二人の作業員(永瀬正敏・大西信満)が描かれる。
お爺さんが、唯一綺麗にしていた部屋に足を踏み入れた男(永瀬正敏)は、彼が書いた”海に向かう坂道”を描いた絵を目にし、更に幻の老人の死体を目にし、彼の日記に殴り書きされた言葉を見て、暗澹たる表情になる。
もう一人の男が呟く、”今は東京オリンピックの工事でも良い金が入るからな・・”と言う言葉と、市役所員と思われる男が二人に告げる”あの人の家族は全員津波に飲み込まれましたから、遺品を渡す人はいません・・”と言う言葉が重く心に残る。
3.episode3 『GOOD YEAR』
・彼の地で、車整備工場を一人で営む男。(永瀬正敏)
机の上には、彼の妻であったと思われる女性の写真が飾ってある。容易に、津波にさらわれてしまった事が分かる。
そこに、派手なスポーツカーに乗った女(月船さらら)の車が、パンクのためガードレールに突っ込み・・。
そして、北海道に行くと言って去って行く女の姿を見送った後、男が呟く言葉。”あれ、お前なんだろう?”
不思議な余韻を残す作品である。
<世間では、福島第一原発事故はすでに過去のものになっている気がする。だが、福島県庁に勤める友人たちによると、復興は全然進んでいないと言う。
私も、出来るだけ当地に足を運ぶようにしているが、確かに"非居住地域”はそのままであるし、作業員が東京に集まっている事実も人材派遣会社の営業マンから聞いている。
この国は、あの”人災”を忘れてしまったのであろうか?>
<2021年2月21日 刈谷日劇にて鑑賞>