ハルカの陶のレビュー・感想・評価
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奈緒の声に癒やされる
ナレーションの奈緒の声がいい。落ち着いて柔らかく響く声だ。いつまでも聞いていられる。こういう声の持ち主は時々いて、女優の朝倉あきもそうだ。聞き心地がいいというのだろうか、内容がすっと入ってくる。逆に聞き心地の悪い声の人もいて、気の毒になるくらい内容が伝わってこない。声は天性だからどうしようもないところもあるが、ものまね芸人のいろいろな声を聞くと、もしかしたらある程度はコントロールできるのかもしれない。そういう風に考えると、奈緒のナレーションは上手に制御されていた気がする。女優さんとしての大きな可能性を感じた。
焼物についてはひと通りの勉強をしたことがある。青山の骨董通りには随分通った。焼物の焼き方には酸化焼成と還元焼成があり、酸素を送り込んで焼くのが酸化焼成、還元焼成は蓋を閉じて不完全燃焼の状態で焼く。温度が上がりやすいのは還元焼成で、固く焼き締める磁気は必ず還元焼成で焼く。陶器はたいてい酸化焼成だが、作品中の焼成過程を見ると、備前焼はどうやら還元焼成で焼くようだ。
還元焼成は高温で焼き締めるから、出来上がった製品は液体を通さない。備前焼は日常的に使うための陶器で、粘土に混ざっている金属によっては遠赤外線効果があったり、ビールを美味しくしたりするらしい。用の器としての面目躍如である。
奈緒が演じた主人公はるかが備前焼に魅せられたのは、それが人の生活を豊かにするからだ。仕事は人から感謝されるから頑張れる。感謝は直接でなくてもいい。その器を使った人が気分がよかったり満足してくれれば、それが感謝だ。作り手は使う人の気持ちを思いながら土を練り、形を整え、焼成する。
焼物の難しさは半端ではなく、素人が簡単にできるものではない。人が喜んでくれるものを作るには相当の苦労を覚悟しなければならない。その覚悟が試されるはるかだが、覚悟はいっときの気負いではなく、持続する志だ。やめないこと、継続すること、諦めないこと。それを覚悟という。
はるかの覚悟と感謝の気持ち、生活の豊かさとは何かという素朴な問いかけが作品全体を包む雰囲気となっていて、そこに奈緒の優しい声が重なり、温かい気持ちで鑑賞できる。余計なシーンは一切ない。言葉を削ぎ落とした俳句のような趣のある作品である。とても癒やされた。
用の器
地球に土が誕生したのは約5億年から4億5千万年前と言われています。
それまで、地球はゴツゴツした岩石の惑星でした。
今は、土で覆われてるように感じがちですが、実は、土がどうして出来たかは、まだ謎の部分は多いのです。
でも、土は植物や動物を育み、人間に農耕を与え、文明の発達した今でも温もりのある器を提供し続けています。
僕は母方が禅宗のお寺、父方は窯元をやっていた家でした。今、親戚が窯元を家族でやっていますが、備前のような集落を構成するような規模ではなく、家族でです。
そんな関係もあって、僕も東京で陶芸教室に通ったことがあるのですが、土を練り、皿や器を仕上げていく過程は、座禅より無心になれて、実は頭がスッキリします。
すみません。なぜ、母方が禅寺と書いた理由がこれです。座禅は邪念との闘いですから…(笑)。
土をねるのは大変です。朝ドラのスカーレットでも今週やっていましたが、腕ではなく身体全体を使ってねるようにしないと、土の中の空気が抜けません。
いざ、器の形を仕上げようとしても、作品も思うようには出来ません。
でも、いちいち予定と違うものが出来るのも楽しいのです。
幕末から明治にかけて、陶器は磁器に押されて生産量は減っていったと思います。海外に門戸を開いたことによって、有田を中心に絵付けの美しい磁器が外国人に人気だったこと、そして、大量生産も可能な磁器が、実は軽くて、普段使いの器としては適しているとして、日本人にも利用が広がったからでした。
ただ、現在、日本の陶器は、国内だけではなく、外国人にもまた注目されています。
便利な世の中になりましたが、利便性だけではなく、持った時の温もりや、花を生けたときの景色、料理を盛り付けたときの食べ物を引き立てる様などに人々が目を向け始めたからだと思います。
もし、抹茶の器を買おうと思ったら、両手で大切に持ってみて下さい。見た目とは異なる収まりの良いものがあるはずです。
そういう選び方もあると思います。
値段は関係ないみたいに言う人もいますが、より高いものは、より五感を研ぎ澄まして持つので、収まりの良いものが値段が高いものであることも多いかと思います(笑)。
僕の親戚の窯元では、釉薬を使います。
しかし、備前は釉薬を使いません。
土の風合いを大切にしているということに加え、経年もそうですが、用の器として長年使うことによって、独特の輝きが出てくるからではないでしょうか。
これは、何か悔しい謳い文句です。
しかし、釉薬の美しい陶器も沢山あります。釉薬と土のコントラストが唯一無二でかけがえのないものもあります。釉のところに使い込んでいるうちに独特な細かいクラックが入り、景色がドンドン変化していくものもあります。
僕は、日本の独特な陶芸があったからこそ、茶の湯も発達したと思っています。また、陶芸も、大量生産とは異なる、唯一無二感とか、一期一会の感覚を日本人に育んだのではないかと思うのです。
映画のクライマックスの窯での場面は、そうしたものを見せようとしたのではないかと思います。
ちょっと出来過ぎなストーリーですけど、みんなが器を好きになってくれれば良いなと思います。
備前焼を扱った良作
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