劇場公開日 2021年6月4日

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「リアリティレベルの調整は見事」映画大好きポンポさん pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0リアリティレベルの調整は見事

2021年6月24日
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鑑賞方法:映画館

単純

武道や芸事など「道」の修行において、我が国には「守破離」という言葉がある。
習い始めからそこそこ出来るようになるまでは「守」
先達が作り上げてきた「型」を守る事こそが効率的な最短の学びを得られる。
かろうじて、それなりの仕事が出来るレベルになれば次は「破」だ。
型を破ることで、様々な応用や試みを自在に利かせられるようになっていく。
プロを名乗れるのは、せめて「破」に到達してからだろう。
そして、数多のプロの中でも「一流」と呼ばれるレベルになる一握りの人間は「離」の段階に到達する。
型を離れ、完全にオリジナルの新たな流派を切り拓いていくのだ。

※(この先、酷評してますので、本作が気に入った人は、ここで読む事をやめるのをお勧めします。)

本作では、ポンポさんの台詞を始め、印象深いフレーズが多数登場する。しかし、それらはあくまで「守」の話である。
最近、明らかに「離」のレベルにある優れた作品達に対して「映画を知らない駄作」「王道を外し、捻り過ぎ」「セオリーと違う」と酷評するレビューを多々見かける。
守の型を振りかざし秀逸な映画作品の価値を貶める若者が、本作によって今後、益々増加したならば、その功罪は相半ばすると言わざるを得ない。
(しかもね。ポンポさんは全部が全部、正しいという訳じゃないよ?結構、独善や暴論も入ってるよ)

博識なレビュアー様が書いておられたが、ニューシネが嫌いなシネフィルがいるだろうか?(反語)
とすれば「90分」は鵜呑みにしてはいけないのだよ、決して!
(もし、原作者や監督が「本気で」90分に拘っているのならば、語るに足らん。一応、本気ではないだろうと良心的に思っておくけどね。
究極・至高への道はもちろん「ギリギリの限界まで削ぎ落とす」事で生まれるが、それは断じて「90分に収める為」ではない!)

素人ならばともかく、この映画を名作などと呼ぶプロレビュアーの評論は信頼が置けない。

星は辛くつけたが、もしも対象年齢が高校生・大学生以下限定であれば星4にしても良いかもしれない。
まぁ、NHK教育の「はたらくおじさん、映画を創る人々」ってとこだな。
(ジェンダー絡みで、→はたらくひとたち→みんなのしごと、に変わったんだよな)
学生の映研や、或いは大人でも盆と正月、年に2回くらいしかシアターに足を運ばない人達なら面白く鑑賞出来るかな?とは思えた。

本作で、唯一、褒められる点は「リアリティレベル調整の見事さ」であろう。
キャラクターは皆、基本的にリアリズムに寄せた描き方をされているのだが、ポンポさんだけが非常にアニメチックな非現実的キャラであるところがミソだ。

基本的にこの作品は面白くなる要素を悉く外している。キャラクターは深掘りされる事なく非常に記号的で魅力がないし、ご都合主義的過ぎるし、トラブルの予兆もないのでスリルもカタルシスもない。
だから、もしもとことんリアリズムに寄せて描いたとしたならば、多くの観客がこのようなノイズに気付き、違和感を覚え、評価を下げるだろう。

ところが、ポンポさんというキャラのみを「非現実的」に設定しておく事で、作品全体のファンタシー要素が強くなり、ご都合主義や予定調和も気にならなくなってしまうのだな。
実写に比べ、始めからリアリティレベルの低いアニメ作品は、リアリティレベルを上げる方が名作の評価を得られやすいが、本作は敢えてリアリティレベルを下げる事で、作品全体に生じる不協和音や至らない点をカバーしてしまっている。
美味しんぼに登場するハンバーガーの話ではないが「バンズのレベルが、パティのレベルに見合わず、かつ、バンズレベルを上げる事が出来ないならば、いっそパティのレベルを下げた方が、完成したハンバーガーとしては質が良い」という好例だな。
(誤解無きように補足しておくが、リアリティレベルは高ければいいってものでもない。高過ぎるとかえってアートに寄ってしまい、理解を得られにくくなる場合もある。重要なのは「バランス」だ。)

もし、この効果を原作者が「狙って」行ったのだとしたら、そのセンスは賞賛すべきだが、でも他の部分を見ていると「偶然、まぐれ」の結果という気がしないでもないんだな。まぁ、凄い事は凄いので、星一つ増やして2にしようと思う。(U-22じゃないからねぇ)

「90分」について言いたい事は山ほどあるが、2つだけに絞る。
まず「人間の集中力」というのはあくまで平均を指し、鑑賞者のターゲットを非常に広く取った場合。つまりA級映画の話になるが(本来のハリウッドにおけるA級、B級区分の話であって、日本でなんとなくB級グルメなどと使われるような格付けの意味ではないよ)ポンポさんが、これまで好んでB級作品と関わってきた事実と矛盾する。B級作品ならばこそ短尺・長尺に拘る事なく、もっと自由な表現が可能になるはずだ。

また「映画の中になるべく浸っていたい」「長ければ長いほど映画の中にいられる」という感覚もよくわかる。ニューシネ好きのジーンが「MEISTER 」を「90分だから気に入っている」というのは、どうしてもピンとこない。まぁ「ポンポさんが好むもの」を作ろうとする心情はわかるがね。

そもそも、原作そのものが90分も必要としないだろう。アランの絡み、要らんと思うし。削ぎ落とすんじゃなくて、無駄に引き伸ばし、引き伸ばししてるんじゃ、90分ピッタリに作るのも簡単だよなぁ。
削ぎ落としがクライマックスならば、いっそ45分程度に仕上げてもらいたい。
3月に観た「ネズラ1964」は53分だったな。「ダンボ」の64分も極めて優れた削ぎ落としだぞ。2歳児の集中力にはちょうど良い。
本作もそれくらいで充分だろう?

ともかくも「守の型」ならぬ「ポンポ節」に固執する「映画大好き」さんが増えない事を祈るよ・・・

pipi
NOBUさんのコメント
2021年8月15日

こんにちは
 お久しぶりです。そうですか・・。大変でしたね。
 pipiさんが、ログイン出来なかった間に、今サイトではイロイロありましたよ。私もレビュー初削除を経験しました・・。(詳しくは、ワイルドスピードの最新作のレビューをご覧頂ければ、幸甚です。)
 今作は面白かったのですが、イロイロと引っかかる部分もありまして・・。pipiさんの切れ味鋭いレビューとは異なる鈍ら刀レビューになってしまいました。
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 昨晩まで、家族4人再集結で宴を繰り広げていましたが、今から娘を愛車ですっ飛ばして(ではなく、安全運転で)送り届けます。
 何だか、夏の終わりは寂しいです・・。等と、小学生みたいなことを言っているNOBUでした。
 何はともあれ、復帰されて嬉しいですよ。では。

NOBU