劇場公開日 2020年4月10日

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「正義の底を自ら見つめる、知の武器が今日も音を鳴らすように」ワンダーウォール 劇場版 たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5正義の底を自ら見つめる、知の武器が今日も音を鳴らすように

2021年7月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

知的

難しい

Netflixのラインアップ落ち前に駆け込みで鑑賞。知の武器を持った彼らの正義を問う様に心が震える傑作。

すごく言語化するのが難しいが、彼らの正義には知が宿っている。論理建てて納得をしてもらえるよう、言論での対立と平和的解決を目指す。それだけに、最初の大学の姿勢に希望を持っていて、その為に挙兵した寮生も多かった。しかし、今は違う。大学は対話を拒み、統治という名の権力で振りかざす。勿論、大学の寮なのだから文句を言われる筋合いなど無いのかもしれない。しかし、聞く耳を持たず実力行使をする様はいつだって制圧の手段にしか写らない。そんな現実をドラマに落とし込みながら照らしてゆく様は圧巻だった。

個々にピントを当てながら、変わっていった近衛寮の行く末を案じる。リーダー格が覇気を失った理由、戦うことを辞めた4年に手段が分からずももがく3年と1年。それぞれ見える景色から意味を照らす。そこが実に知的で奥深い。ワケもなく惹かれたこの寮で、存続したい理由が一体何なのか。青春を刻んだ伝統のため、では片付かない思いをただ馳せることしか出来ないもどかしさ。上手いことフィクションに織り交ぜながら、学生と大学の対立という稀有な問題をジャーナリズムの視点で問い正したNHK京都は本当に凄い。

キャストは意外と知らなかった人が多かったかも。岡山天音に天野はな、若葉竜也は知っていたが、須藤蓮と三村和敬は知らず。あと実際の大学生もいたのかもしれないが、そのドキュメンタリーに似た視点から巡る展開に、問題提起の強い意志を感じる。また、成海璃子による視野の変化、68分の短さながらいかに詰め込みながら主題をブラさないのか。緻密さも魅力的。かなり濃い作品だった。

変えたくないものがあるように、不可侵な領域に寮がある。一方的な制圧によって立場を失いつつある近衛寮の学生たち。しかし、そこには知と個性が無造作に生きている。その壁の向こうから響かせてくれ、彼らの音を。私はそれを応援し続けたい。

たいよーさん。