「難点はあるが、グズグズな恋愛描写は◎」Red りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
難点はあるが、グズグズな恋愛描写は◎
『ナラタージュ』が映画化されてもいる島本理生の同名小説の映画化。ただし原作は未読です。
商社マンの夫と幼稚園に通う娘、そして実業家である夫の両親とともに東京の郊外・国立の邸宅で専業主婦の塔子(夏帆)。
経済的にも恵まれ、周囲からみれば何ひとつ不自由などない生活にみえるだろうが、常に窮屈な思いで暮らしていた。
それは、彼女の育った環境によるのか、それとも・・・
そんなある日、夫に同行を強いられた夫の仕事がらみパーティで、10年前に熱烈な恋愛をした男・鞍田秋彦(妻夫木聡)と再び出逢ってしまう・・・
というところからはじまる物語で、簡単に言えば、身も蓋もない不倫もの。
身も蓋もない・・・あるのは、割れ鍋に綴じ蓋、花瓶に花束、身も心もすべて・・・といったところ。
もうグズグズな一晩経った湯豆腐みたいなもの。
そんなグズグズな恋愛映画の脚本を書いたのは池田千尋(『クリーピー 偽りの隣人』が印象的だ)、監督は『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子、女性コンビ。
グズグズ不倫から「道行(心中のこと)」するしかないまでになってしまう、グズグズな男女の関係は見事に描けている。
雪の道行となる場面、塔子の前に唐突に鞍田が現れるのは、必然としかいいようがなく、そんなところをツッコんでも仕方がないし、ツッコむだけヤボ。
なので、そこいらあたりは文句は付けない。
が、いくつか難点がある。
大雪の夜の道行は、ジェフ・バックリーの『ハレルヤ』に乗せて、塔子の公衆電話のあと、ふたりで自動車に乗って夜の中に溶け込んでいくシーンで終わらってほしかった。
途中の、田舎の食堂を出たところで、鞍田が倒れるのは余計だし、戻った塔子のその後の決断めいたものは蛇足でしかない。
夜の道行は、やはり、文字どおり「道行(しつこいが、心中のこと」をイメージさせて終わらなければ、余韻もへったくれもなくなってしまう。
ジェフ・バックリーの曲が、相米慎二監督『ラブホテル』の中での山口百恵が歌う『夜へ』に似た雰囲気なだけになおさら。
もうひとつは、塔子が暮らす郊外での生活があまりにも嘘くさい。
これは三島有紀子監督の2014作品『繕い裁つ人』の夜会シーンのようで、現実味が薄い。
シチュエーション、ロケーションは仕方がないとして、もっと切り詰めた方がよかった、
夫の両親なぞ、画面に出さずとも演出できたのではなからろうか。
このふたつは、映画として必ずしも必要ということでもないので、もしかしたら、脚本の稿を重ねるうちに、「もっと観客にわかりやすい方がいいのでは?」なんて意味で盛り込まれたのかもしれませんが。
なお、夫との生活のなかでは、結婚記念日に高級すき焼き料亭に行くシーンはよかった。
「君に食べさせたかった」といいながらも、「豆腐はもう出来てるよ。春菊も」の夫の台詞は良いと思います。
最後に、主演のふたりはどちらも熱演。
肉体だけで、グズグズな恋愛関係を演じ切っていたと思いました。