「母性か女性か」Red Akihiroさんの映画レビュー(感想・評価)
母性か女性か
「幼な子われらに生まれ」で家族の分裂と再生を描いた三島有紀子監督の今回のテーマは、「母性」と「女の性」の選択だった。その過程は夏帆さん演じる塔子の表情の変化で見事に描かれている。登場人物の個性と感情を、台詞で語られる言葉と俳優の細やかな仕草で表現する三島監督作品は毎回興味深く観ている。
話題になった原作との比較は不必要なほど独自の世界観が創られているが、映像というアドバンテージを手にしたこの作品が最も印象的なのは、やはり表題の「Red」の表現だろう。塔子が10年ぶりにかつての恋人・鞍田と再会した場面では、二人は暗闇に差しこむ微かな赤に包まれる。この瞬間から白や淡い色合いの平板なイメージだった塔子の感情に変化が表れ、彼女の人生は大きく舵を切ることになる。
その後も随所で赤い色が塔子の決断の象徴として描かれているが、特に印象的だったのは、二人の横を通り過ぎたトラックの積み荷に結ばれて風に吹かれていた赤い布が、最期はほどけて道端に落ちるシーンだ。この赤い布はまるで塔子の決断に至るまでの揺れる心であり、布が落ちた場所にあった公衆電話から彼女は夫に決めた思いを伝えている。勝手な見方かもしれないが、見事な演出だと思った。
主役の夏帆さんは作品によって大きく印象が異なる俳優だ。この作品の印象深さの一つは夏帆さんの母と女を見事に表現した演技と、それを引き出した三島監督の手腕だと思う。塔子が柄本佑演ずる小鷹と飲んで遊んでいる場面で、日常の家事から離れて心から楽しんでいる彼女を演じていた夏帆さんの表情はとても綺麗で可愛いかった。
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