「本には力がある」スケアリーストーリーズ 怖い本 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
本には力がある
誰にだって子供の頃、何度も読んだ好きな本がある。
ギレルモ・デル・トロの場合、これ。全米各地の伝承や都市伝説を基にした児童書シリーズ『誰かが墓地からやってくる』。
自らのプロデュース/原案で映画化。
物語の始まりは、1968年のハロウィン。とある田舎町…。
ホラー作家を目指すステラと幼馴染みのオギーとチャックは、あまり町で見掛けないラモンと知り合う。
いじめっこの不良から逃げる傍ら、町の恐怖スポットの廃屋敷に忍び込む。
曰く付きの屋敷、昔住んでいた曰く付きの少女、その少女が書いたという曰く付きの恐ろしい本の数々…。
ステラが出来心で一冊の本を持ち出した時から、町で身近な人々が失踪。
それらは全て、本に“新しい物語”として書かれ、それが現実に…。
全米ではあまりの恐ろしい内容や挿絵から学校図書館に置く事を禁じられたという。
なので、とんでもなく怖いホラーと思っていたのだが、勿論薄気味悪さや不気味さやそれなりに怖い描写はあるが、メッチャ怖いホラーとまではビビらず。
所謂、ティーン・ホラーの類い。
かと言って、決して期待外れなどではなく、『IT/イット』などのジュブナイル・ホラー好きやデル・トロ印は必見、“物語”も悪くなかった。
デル・トロにとっては自身のビジュアルの原点。登場するクリーチャーの挿絵原画を所有するほどだという。確かに、後の自身の作品に通じる。
カカシのハロルド、青白い顔の太った長い黒髪の女性(←個人的にこれ、強烈!)、そして“「ミィタイ ドウティ ウォカァ」”…。
これら原作の挿絵を忠実に再現したらしく、なるほど、子供たちにはトラウマ必至。
デル・トロらしく、極力CGは使わず、特殊メイクで創造。
1960年代、子供だったあの頃。
ハロウィンという時期。
それらが恐ろしい物語の中で、何処かノスタルジックな雰囲気を醸し出す。
ホラーおたく。冴えない仲良し友達。
これらもデル・トロ“自身”なのかもしれない。
ただ理解し難い恐怖が襲い来るだけじゃなく、身近なイジメや警察圧力、ベトナム戦争などの世の情勢など、不条理な“恐怖”もそれとなく溶け込ませている。
デル・トロに抜擢された気鋭ホラー監督の恐怖センス。
こちらを見る老婆、カカシに変化、シチューの中の足指、ニキビからクモ…インパクトある描写やグロい描写もなかなか。
でもやはり、書かれた恐ろしい物語が現実に起こる。
普通は人が本を読み、感動し、時には心を癒すのだが…、
本が人を物語り、恐怖させ、傷付ける。
が、どんな物語にも必ず隠された秘密や真実が…。
ステラたちはこの呪いの本を調べ始める。
著者の少女、サラ。
魔女のように忌まわしい存在と思われていたが、実は…。
恐ろしさの裏の哀しさというのは、古今東西ホラーの鉄板。
サラの無念と怒り。
ステラは大切な友達の命を奪ったサラを許せない。でも、助けたい。
サラの過去は余りにも悲惨。
サラはこの本を通じて、助けを求めていたのかもしれない。
そしてサラはこの本を通じて、読み伝えてくれる人物を待っていたのかもしれない。
本を粗末に扱ったり、盗んだりしたら、必ず罰が下る。
が、世の中、“怖い本”じゃなく“素晴らしい本”の方が圧倒的。
誰かの心に残る。
誰かの原点になる。
誰かの希望になる。
本には力がある。