少女は夜明けに夢をみるのレビュー・感想・評価
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社会の辛さから逃れられる場所としての更生施設
イランの少女更生施設、要するに少年院のような場所だと思うが、監督が7年かけて交渉して施設内で撮影したドキュメンタリー映画だ。画面に映る少女たちは屈託ない笑顔をカメラに向けている。しかし、聞けば相当に過酷な経験をしている。ここは罪を犯した少女が入る場所だが、彼女たちには生きるためには犯罪以外の道がなかったのだ。社会では居場所を持てなかった少女たちが、社会から隔離された施設の中で笑顔を見せる。社会の中で虐げられる存在だからこそ、社会から隔離されたこの施設は、皮肉にも少女たちにとって居心地のいい場所なのだ。出所が近づくとむしろ笑顔は消えていく。彼女たちにとって施設よりも社会の方が過酷なのだ。 少女たちが無邪気な笑顔を見せるこの映画には悲壮感はない。だが、彼女たちの取り巻く社会を思うとやるせなくなる。施設の少女たちにフォーカスすることで、イラン社会の不条理も間接的に映し出した見事なドキュメンタリーだ。
希望なき絶望の中で見る夢
英語タイトルは"Starless Dreaming"。「星なき夜に見る夢」あたりが直訳。少女達の口から語られる、重い、重い、重い話の連続に気は滅入るばかり。 娘に売春をさせた金でクスリを買う父親を持つ少女の言葉。私はゴミの中で育てられた少女。あなたの娘は愛情を注がれて育てられた。 大好きだった父親を殺した少女は言う。痛みが四方の壁から溢れて来る。一人では抱えきれない。この身体には入り切らない。 どんな時代であっても。如何なる境遇にあっても。ほんの少しの希望が有れば、人は生きて行ける。生きようと思う。塀の中で、彼女達は痛みを分け合い、絶望を共有することで孤独から救われ、何とか生きている。むしろ塀は、絶望から彼女達を守る防御壁な訳で。そこに希望は無い。夜空に、星なんか見えないよ。 釈放され外に出て行く少女達は、必ずしも幸せそうな顔をしていない事が悲しい。 夢は死ぬ事だと話していた少女は、家族の理解を得て愛情を取り戻して言う。夢は生きること。 星なき夜に、夢などない。私達は、誰かの星になれる者として生きて行かなくては、って思いました。 物凄く刺さってしまって。 良かった。とっっっっても!
生まれながらにして
私は恐らく幸せだ。自分でお金を稼ぎ、食べるものには困らず、映画鑑賞を趣味にしている。嫌な事はあるけれど、生まれなければ良かったと思った事は一度もない。生きることは素晴らしいと言われれば、そうかなと思う。 しかし、私はスクリーン越しに映された少女達に、生きることは素晴らしいなんてもっともらしい事を言えるのだろうか?私が彼女達だったら、そんなもっともらしい事を言われた時に何を思うだろうか? 生まれながらにして暴力と貧困に晒される彼女達は、生まれる場所も環境も選べない。私が生まれてきて良かったと思うことが、単に運が良いだけなのだ。そして、彼女達を取り巻く悪い環境は、明らかにイランの経済に左右されている。イランの経済は、国際政治に左右されている。国際政治を動かしているのは、アメリカを中心とした先進国である。だから、彼女達の劣悪な環境は、紛れもなく先進国が作り出しているとも言える。 74年前の広島と長崎で丸焦げになって死んでいった子供達も、骨と皮だけになって餓死する虐待児も、売春するしか生きる術のない少女達も、地中海で溺れ死ぬシリアの子供達も、国家権力と金持ちの犠牲者だ。そう、全てが繋がっている。
家族って…
犯罪に手を染めなければ生きていけない世界。似たような境遇の仲間たちが集うその空間だけが罪を犯さずに生きていける場所。泣きたければ一緒に泣いてくれる仲間がいて、無理をしてでも笑いあえば声を上げて笑うこともできていた…はず。でも、結局帰る場所は家族の元。あんなに苦しい思いをさせられた家族の元。夢は?と聞かれた少女が「生きること」と答えられた言葉とても大きな変化で喜ばしいことのはずなのに、何かが引っかかってしょうがない。
同情の視線にならざるを得ないが、
犯罪の線を超えた時、彼女たちは犯罪者の顔をしていたのかな?なんて思う私は考えが足りないのだろうか… 彼女が盗んだ結果、被害者が犯罪者の境遇へ落ちることもあるだろうに。 やるせない。
救われない娘たち
弱い人間がさらに弱い立場の人間から暴力で搾取する世界。一番弱い少女たちとそのお腹の赤ちゃんたちが、家畜以下の扱いを受けている。この映画の少女たちの中でいったい何人が成人まで生きられるだろう。聖職者との面談で質問し切実に神に訴える彼女たちの声に、聖職者は応える言葉がなくはぐらかすシーンがあった。日本の福祉の現場でも同じような場面を見慣れている。更生すべきは犯罪を犯した少女たちではなく、社会に紛れて無関心に暮らしている私たちの方だと、胸をえぐられました。
映像と内容のギャップが際立つ
美しい女性らが決まった構図・絵の中で語るその内容は、あまりに悲しく、哀愁漂う作品。イスラム圏の若い女性の立場が垣間見え、犯罪に走ってしまう現状や環境が、絵と内容のコントラストによって際だっているように感じた。
「泥棒の娘は盗んだものを食べて育つ」
ドキュメンタリー作品に、(a)意図や思想を明確に示すものと、(b)映像を出して観客に自由に考えさせるものの両極があるとすれば、意外なことに、本作品は後者に属すると思う。 よって鑑賞後には、どこか“食い足りない”感じは残った。 ただし、たびたび少女たちへの直接インタビューが入るので、ワイズマンの映画のような、完全な傍観者(第三者)ではない。 顔出し取材なのに、少女たちが臆せずに話してくれるので、どういう犯罪をしたのか、その背景は何か、今どういう気持ちなのかが、具体的に浮かび上がってくる。 家庭に問題がある点で、同じ境遇にある少女たちなので、連帯感があって仲が良いというのが印象的だった。 全部で10人程度の少女のインタビューを取るが、映画が進むにつれて、主に2人の少女にフォーカスする内容となっている。 イランでも、珍しい取材のようだ。 基本的には日本と変わらないのかもしれない。 ただ、日本のような複雑で派手な消費社会ではないので、非行の原因は、薬物か、性的被害か、その両方という、かなり単純な構造に見えた。 また、日本よりも女性への社会的な束縛が強い社会なので、“絶望感”はより深い。出所しても状況は変わらないので、「釈放されたくない」という少女がいるのには、驚きだった。 日本でも、顔出し取材でなくてもいいから、こういう問題がもっと“顕在化”すれば良いと思った。
厚生施設?
普段イスラムの女性をお見かけすることがないため、イスラムの女性厚生施設の イメージが湧かないため、日本のそれと対比しながらみていました。日本人のような渇いた擦れたような感じではなく、どの女性も目力があり絶望的な中にも光明がみえる、そんな印象を受けた。罪人の集まった厚生施設にしては明るいし活気があるし、口では、希望は死ぬことなんて衝撃的な語りをするのだが、妙に生命力を感じる女性たちの言動にみいってしまった。 厚生施設を卒業していく彼女たちが、まるで楽園から戦場へ赴く兵士のように感じたのは現実があまりにもリアルであり世知辛いすぎるが故なのか。
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