「画で世ン中変えられる」HOKUSAI 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
画で世ン中変えられる
江戸の浮世絵師、葛飾北斎。
遺した数々の名画は日本のみならず世界中、後世に多大な影響を与えた。
『北斎漫画』や娘・お栄を主人公にした『百日紅』などの映画他、メディア化も数知れず。
自分だって知っている北斎…の画や名。
が、その人物像は全くと言っていいほど知らない。謎に包まれている点が多いとか。
残された歴史的資料を基に、オリジナル・ストーリーで、その謎多き生涯に迫る…。
後に北斎と改名する貧乏絵師の勝川春朗。なかなか芽が出ない上に素行が悪く、師匠から破門。が、喜多川歌麿や写楽を見出だした版元の蔦屋重三郎に認められ、遂にその才能を開花させる…。
少なからず例外は居るかもしれないが、どんな歴史的偉人だって最初はそう。
認められない。
売れない。
何より自分の表現したいものが表現出来ない。
その渦中。
若き頃はそれと闘って闘って、悩んで悩んで。
才能を認め、引き出し、導く人物の存在。
重三郎の言葉が響く。
海の向こうにも国がある。たくさんの酒や女がある。いつか店を出す。
画で世の中を変えられる。
北斎が羽ばたき始めた瞬間。
作品は四章分け。
先述が一章。
北斎と改名し、売れっ子浮世絵師となった二章。
老年期の三章。
晩年の四章。
その都度その都度、盟友との出会い、時代に翻弄された苦悩、“画狂人”と呼ばれた画への執着が描かれる。
ユニークなのはキャスティング。青年期/老年期で二人一役。
反骨精神ありながら画をストイックに追い求め続ける青年期を、変幻自在な柳楽優弥が巧演。
しかしやはり、老年期を演じた田中泯が圧巻。その佇まいは勿論、画を見出だした時の演技や表情は何かの極みに到達したかのよう。
それぞれの北斎像を体現。
重三郎役の阿部寛、盟友となる戯作者・柳亭種彦役の瑛太も好演。
北斎のみならず、江戸の文化/風俗も興味深い。
そんな文化人たちを苦しめたのは、幕府の政策。
風紀を乱すような書物や画は一斉排除。その作者は対象。
表現の自由が奪われていく…。
実際、北斎の周りの人物たちも…。
それでも北斎は画を描く事を止めない。
こんな時でも。
こんな時代だからこそ。
かつてある人物が言った。
画で世の中変えられる。
それを今尚追い求め続ける。
北斎入門書としては見易い作品。
でもそれはそれで、良でもあり難。
だらだら薄く北斎の生涯を描くのではなく、青年期や老年期、盟友との親交、名画誕生の瞬間にピンポイント。そこから“北斎”を浮かび上がらせる。
しかしその一方、どうしても作品的に重みに欠ける。2時間のSPTVドラマのようでもあり…。この監督(橋本一)には荷が重かったか…?
比較するのは酷だが、往年の名匠だったらもっと見応えある作品になっていたかもしれない。それに北斎の事をじっくり描くなら、大河ドラマ向きかもしれない。
それから少々気になったのは…
江戸幕府の弾圧。歌麿は捕らえられ、種彦に至っては…。その悲しみのシーンはあるが、北斎自身に害は及ばず、ちと説得力が弱い。
晩年、不自由な身体で旅に出る北斎。様々なものを見、感じ、集大成となる画を描くクライマックス!…と思いきや、いつの間にやらあっさり帰宅。
時間経過やメリハリなど、もうちょっと巧みに付けて欲しかった気も…。
北斎や周囲の人物の事も知れて悪くはなかったが…、
細かい事言い出すとキリないのでこの辺で。
荒波、難波、苦波を越えて、
遂に辿り着いた誰もが知っているかの“波”。
夢幻、戯言ではない。
画で世の中変えられる。
近大さんのように この映画が史実に忠実に再現されてると思っていらっしゃる方々が多いと思うと…残念です。私の調べた事も全部間違ってないかと言われれば・それは分かりませんが、もし 宜しければ、レビューと皆さんからのコメントもお読みいただければ…と思います。