「前半はなかなかの見応え」HOKUSAI bionさんの映画レビュー(感想・評価)
前半はなかなかの見応え
前半は、歌麿、写楽が登場して北斎との才能のぶつかり合いが面白い。謎の絵師と言われる写楽が、如才ない若き天才という演出もなかなかいい。道楽で筆を走らせたらとしていたら短期間で姿を消したのもあり得るかな。
後半は、テイストが変わってアート的な演出が多くなるのだが、これがあまり良くない。北斎の絵に対する情念が伝わってこない。80才を越えた体で、信州・小布施に向かったのは、命が惜しいからではなく、絵を描きた一心からだったと思う。
せっかく田中泯が鬼気迫る演技をしているのになんかもったいない。柳亭種彦の最後もそう。アートな仕上がりにしたいがためにおかしなことになっている。斬首って武士にとってもっとも屈辱的なはずだけど。
物語にはあまり関係がないけど、絵師や戯作者を弾圧した『天保の改革』って呼び名が昔から引っかかる。時計の針を戻して国内を混乱させただけなんだから『天保の失政』と呼ぶべきだと思う。
「芸術」自体に対しては、それほど酷い弾圧ではなかったと思うのです。
遊女画や歌舞伎役者画は禁止されましたが、歌川国芳に代表されるように、役者の顔を猫など動物の擬人化で表したり、遊女の名前を暗号(判じ絵)で書いて「ただの美人画」で押し通したりすれば、規制をくぐり抜けられましたもの。
歌舞伎でも、忠臣蔵を室町時代の話にして、大石内蔵助を大星由良之助と名を変えれば大目に見て貰えたし。
刑罰も基本的には厳重注意、始末書、罰金刑だったそうですから。
見せしめの焚書や投獄は、ごく稀でした。
歌舞伎界と寄席に対しては、結構厳しかったですが緊急事態宣言の飲食店自粛と同じように感じます。(寄席は半分くらい潰れてしまったそうですから、経営者は悲惨だったでしょうが)
「芸術の弾圧」ではなく「大飢饉を乗り切る為の贅沢の制限」ですから、bionさんの仰る通り、種彦の最期などはおかしな脚色しないで欲しかったですよね。