「なんどもウルルとさせられた、予想外の秀作」みをつくし料理帖 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
なんどもウルルとさせられた、予想外の秀作
江戸時代の享和二年の大坂。
幼い頃から天神橋の近所で育った澪と野江。
泣きみその澪は、いつも野江に慰められる間柄だった。
ある時、著名な八卦見に手相を見られたふたり。
野江は「旭日昇天」天下を取る相、澪は「雲外蒼天」苦労の末に青空を手に入れる相といわれる・・・
といったところから始まる物語で、その後、二人は享和の大水で離ればなれになり、十年後に江戸で暮らすようになる。
澪(松本穂香)と料理屋の手伝いとして、野江(奈緒)は吉原最高峰の花魁として・・・
と、まぁ一手みれば、かなり大味な女性ドラマで、朝の連続テレビ小説みたい。
たしかに、そんな感じなのだが、かつての日本映画の風雲児・角川春樹もいまや老成したようで、演出が手堅い。
映画としての手堅い演出としては、主役二人の演技を信用し、彼女たちの演技は長廻しで撮っている。
それに応えるように、特に主役の松本穂香の演技は、かなり繊細。
ふつうのときは、特段、「下がり眉」ではないのだろうが、この映画では、常に、どうしていいかわからない困ったような表情をし、それそのものが物語を動かしていく原動力になっている。
彼女がほのかに恋心を寄せる武士・小松原(窪塚洋介)は彼女のことを「みを」とは呼ばず、「下がり眉」といってい、それがいいアクセントになっている。
終盤、澪が重大な決意したことを小松原に告げるシーンで、小松原が返す言葉、「退(さ)がるなよ、下がり眉」、これがいい。
この一言のために、彼女のキャラクターを「下がり眉」としたと言っても過言でないかもしれない。
このような、ピリリと効いたセリフがあってこそ、全体的には大味とも思える映画が締まってきます。
俳優陣もおおむね好調で、先に名を挙げた俳優以外では、中村獅童と若村麻由美がキリリとしています。
中村獅童は、いいときの中村錦之助のような凛々しさ。
若村麻由美は、一本筋の通った御料さんを演じています。
観ている最中、何度もピリリと効いたセリフにウルルとし、「自分も歳をとったなぁ」とも感じましたが、いや、この映画が習作だったのです。