「ヒトラーユーゲントの心の機微を描いた傑作」ジョジョ・ラビット 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒトラーユーゲントの心の機微を描いた傑作
ナチス・ドイツの終焉に至るまで、青少年集団「ヒトラーユーゲント」の物語ということで、その舞台背景を理解するのが中々難しかったです。「なんでヒトラーが少年についているのか」と理解不能に陥りそうでした。でも、ギリギリ聞いたことがあって(映画の途中でAIにも確認してしまいましたが)英雄的存在を空想して対話や問いかけを行い脳内会議をするための内的メンターとか云う奴だとか。徐々に実在しない空想であることが理解出来ていくのは、自分の頭の回転が鈍いのか、それとも監督の手綱に操られているのだろうか。
さらに、かくまわれているユダヤ人との出遭い。ちょっと恋の香りを楽しめるのかと思いきや、結構、ハラハラさせられる存在に。話の流れに乗り損ないそうになりながらも、物語のロジックを追うのが難しくも面白かった。母親が吊されていることも危ういところで見逃すところだった。
最初はナチスと思えぬラフなノリで、しかもオープニングはビートルズ。どういう価値観で作られた映画なのかと首を傾げていたけれど、成る程。子供視点とみればよいのでしょうか。初期のビートルズはアイドル的憧れの存在。それが当時のユーゲントの憧れ、ヒトラー。それを象徴しての初期ビートルズの傑作「抱きしめたい」だったのか。時に楽しげにコミカルに描かれてはいるけれど、時代背景と話の内容は実にシリアス。登場人物が子供の物語であるからか。コミカルではあるけれど、占領間際で子供たちに手榴弾や機関銃を持たせて突撃されるのは、よく考えてみれば、あまりにもエグい。日本のバンザイアタックにも被る。
ナチスの教育を受けたから止む無しと言いたいところだけれど、やっぱ少年の振る舞いにはイラッとするところもある。母親が吊され、その腹いせにナイフで刺したのは何故か。その心理の動きにも理解するのが難しい。
でも、最後には自分の力で呪縛を破り、妄想ヒトラーを蹴っ飛ばしたのは偉かった。よくやった。でも、あの冒頭から出てくる将校?の人に制服を剥がされ蹴っ飛ばしてツバを吐きかけて助けてくれた、その自己犠牲にも心を打たれたか。そして母親からもコツコツと与えられた言葉からも動かされたか。全てに助けられ、良い結果となったのかも。
そう、良い結果であって欲しい。もうドイツは負けたのに騙して閉じ込めていた気持ちも判る。ネイサンを紙の上で拷問していたのも嫉妬心か。それもこれも恋心なのかと思いたい。「さてどうする」と問いかけ、母の意志を受け継ぎ、ダンスで締める。素晴らしいと思う。エンディングは大好きなデヴィッド・ボウイが嬉しかった。ベルリン三部作という「HERO」からでしたか。ビートルズのはドイツ語版。うーん、成る程。歌詞とかも意味が込められているのか。よく知らんけど。リルケの詩とかも難しい。でも、お題であった「ラビット」の意味は成る程と思う。イラスト付きの解説ありきだし。
いや、凝った作りの傑作でした。事前の情報抜きでも何とか理解出来たと思う。思いたい。