「ジョジョの勇気ある冒険 ワイティティの才気は止まらない」ジョジョ・ラビット 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ジョジョの勇気ある冒険 ワイティティの才気は止まらない
ナチスを題材にし、軽快なコメディに。
下手にやれば凡作か駄作になっていただろう。
が、そうはならなかった。
タイカ・ワイティティという才人の手腕。
称賛の声に溢れていたが、評判違わぬ良作!
立派なヒトラーユーゲントになる事を夢見る10歳のドイツ人少年ジョジョくん。
“2番目の友達”太っちょのヨーキーくんにはちょっと偉ぶってるけど、実際はのび太くん並みの気弱で何をやってもダメダメくん。“ラビット”なんてあだ名まで付けられ…。
でも、僕には“1番の友達”が居る。彼の名は、アドルフ。そう、我らが総統が“空想上”の友達。
総統やナチスへの忠誠心強く、親友のアドルフに支えられ、目指せ!立派なヒトラーユーゲント!
…だけど、やっちゃったんだな…。ヘマしてユーゲント訓練から外され、雑用係に…。
僕はママと2人暮らし。
美人で利発的でユーゲントの大尉にも物怖じせずズケズケ言うほど強い性格。
でも、いつも靴紐を結んでくれる優しいママ。
“仕事”で家を空けがち。一体、どんな仕事をしているんだろう…? 世界を救うヒーローかな…?
時々僕らの“正義”のナチスについて意見が分かれるけど、僕はママが大好きさ!
もしユダヤ人がこの家に居て、ママを催眠術にでも掛けていたら、僕がユーゲントの短剣でぶっ殺してやる!
…本当に居た。
家の壁の中から物音が。
恐る恐る壁の中の隠し部屋に入ってみると…
そこに、おぞましいユダヤ人が! 僕よりちょっと年上の少女で、亡き姉の友達だったというエルサ。
いつからここに棲み付いた?
ママに催眠術でも掛けたな!
このユダヤ人め!
よ~し、通報してやる!
でもこのユダヤ人、ユダヤ人にしてはちょっと頭が良く(それにユダヤ人にしてはまあまあ可愛く)、僕を脅して来やがった!
通報したらユダヤ人を匿っていたと言い、ママも罪に問われる。
ママを守る為に、ここは一旦様子見。
そうだ、このユダヤ人からユダヤ人の事について色々聞き出してやる。
そしたらママを守る事にもなるし、総統やナチスの為にもなるし、他のユダヤ人を見付ける事も出来る。一石三鳥!
別にずっと家に居るからって訳じゃないけど、毎日のようにあのユダヤ人と話す機会が多くなる。
話を色々聞き出し、ユダヤ人の秘密を暴く本を書く為なんだけど、彼女と話す事が何だかちょっと楽しみに。
それと、何なんだろう、このお腹の中で蝶が羽ばたくようなムズムズするような感じは…?
僕、一体どうしちゃったんだろう…?
そんなジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィスくんの演技が見事!
大人の役者でも難しい戦時下に於ける善悪の視点の変わりようを、子供ならではのユーモアや純真さで絶妙に体現している。それ故ある悲劇のシーンでは涙を誘う。新星現る!
彼もいいが、エルサ役のトーマシン・マッケンジーの聡明さと美少女っぷりに、見てるこちらもお腹の中で蝶が羽ばたく。あるシーンでユダヤ人なのに「ハイル・ヒトラー!」と言わざるを得なくなり、ユダヤ人が侮辱されそれに堪えなくてはならぬシーンもあり、その辛さも滲ませる。今後の活躍に大期待!
サム・ロックウェルは『リチャード・ジュエル』に続き好演。終盤のネタバレになるが、ナチスでありながらエルサを庇い、最後のあるシーンでジョジョも助け、出番はそんなに多くないが、美味しい所を持っていくさすがの巧者!
そして、ママ役のスカーレット・ヨハンソン。この美しく、愛溢れたママが居たからこそ、作品に華と優しさが出た。顔に墨を付け一人でママとパパのフリをするシーンやジョジョと2人でサイクリングするシーンだけでも、作品の中で特に印象を残す。それだけに、あのシーンは…。
レベル・ウィルソンのコメディエンヌぶりや、ヨーキーくんにもほっこり。
それにしても本当に、ワイティティの才に唸らされる。
重く悲壮感漂いがちな従来の“ナチス物”。
覆すほどポップで陽気に。映像面もハートフル、美術や衣装もカラフル。ビートルズやデヴィット・ボウイの曲に乗せて。
ワイティティ本人もアドルフ役で出演。かなりの大袈裟演技。
歴史に残る大罪を犯したナチスを面白可笑しくコメディにして、大丈夫…? 批判されない…?
これでいいのだ。
コメディにして、笑いのネタにして、より皮肉と痛烈なメッセージ。
笑えれば笑えるほど。
そこに、少年の淡い初恋物語。
過去の名作映画へのオマージュも。
靴紐を結ぶシーンや似たような画面構図など伏線も巧み。
でも、意表を突くブラック・コメディだけじゃない。しっかり訴えている。
突然ゲシュタポが家に押し入る。大尉やエルサの機転でハラハラの危機を免れるけど、何故…?
そして、広場で見付けてしまった。ママが…。
ユダヤ人を匿ったから、ママは…。ユダヤ人が憎い。
でも、“正義”のナチスがママを…。大好きな僕のママを…。
どっちが正義で、どっちが悪者…?
ある日突然、戦局が変わった。
勝利間違いナシと思っていたナチスが敗北。
親友の…いや、本物のアドルフは自殺。
その偉大なる総統こそ本当の悪者で、僕らを騙していた。
ユダヤ人は僕らと変わらぬ同じ人間で、ヒトラーはユダヤ人にとてもとても酷い事をしていた。
洗脳をしていたのはユダヤ人ではなく、ヒトラーの方だった…!
くたばれ、ヒトラー!
“親友”を蹴っ飛ばすシーンは、痛快愉快!
“正義”のアメリカ軍がやって来る。
でも、彼らも本当に正義の味方…?
僕を捕まえ、連行しようとする。
その時助けてくれたのが、大尉。
大尉はいい人だ。
その大尉をアメリカ軍は…。
きっと、戦争で皆が世界が、全てがおかしくなったんだ。
子供の僕には分からない。
分かっている事は、一つ。
エルサを助ける。
この愚かな戦争で、一番の正義は、敵を殺す事じゃない。
誰かを守り、助ける勇気。
今、やれる事をやる。
ナチスが仕掛けた戦争は終わったけど、この世界から戦争は無くなるのかな…?
人種の偏見や差別も無くなるのかな…?
分からないし、まだまだ遠いかもしれないけど、束の間でもこの自由と解放に、さあ踊ろう。
コメントありがとうございます。この映画は本当に何につけてもいいですね。近代さんのレビューも、いつに増して細やかに気持ちが入っているように感じました。紐の伏線ですね〜。
私は4.5点なのは、やはり悲しいからです。ただ他の方のレビューにありましたが、あの2人が姉と弟のようにこのあとに手をとりあって生きていけたらそれはハッピーエンドになるのかも(?_?)