「「ウルトラマンの美」をもう一度見つめ直す傑作」シン・ウルトラマン togalidさんの映画レビュー(感想・評価)
「ウルトラマンの美」をもう一度見つめ直す傑作
「自分がウルトラマンに親しみを覚えていた理由はこういうことだったのか・・・」
この映画を見て気づかされた時にはもう涙が止まらなかった。
ウルトラマンをよく知らなくても本作はエンターテイメントとして楽しめるだろう。
シンゴジラのようなインパクトを求めに行った人は消化不良に感じるだろう。
しかし、なぜかウルトラマンに心惹かれ、好きな理由が自分でもよく分からなかった人ほど絶賛する映画に違いない。
この映画のテーマは「ウルトラマンの美とは何か?」ということだと感じた。成田氏が描いた「真実と正義と美の化身」。あの絵で表現したかった真実、正義、美はなんだったのかという事を庵野、樋口監督は目を逸らさずに解釈し、我々に分かりやすく「君がウルトラマンを好きな理由はね、こういう事なんじゃないの?」とヒントを与えてくれる。
最初に降り立ったウルトラマンは「銀色」。神に限りなく近く完全だった彼が人間と融合することで「赤色」が加わり、彼自身も「神」から人間を理解することで一つの「生命体」であることに気づき、最後は人類を守るためにメチャクチャな行動をして完全とは言い難い存在として描かれる。
でもだからこそ!人間の悪いところ、未熟なところを承知な上で人類の可能性を信じて身を犠牲にするからこそ!「真実、正義、美」を感じることができるのだ。ウルトラマンの魅力は神のような力や完全性ではなく、人間の不完全さを理解した上で人類に寄り添い、決して見捨てないところにある。
完全な力を持っているのに寄り添ってくれるところにこそ、優しさ、愛を感じることができる。(この巨大な何かが優しく寄り添ってくれるという感覚はトトロ然り、日本の自然観に由来しているような気がする)
「千万人といえども、吾往かん」
初代ウルトラマンが生み出された時代ではこの考えを当然のごとく持っていたクリエーターが多かった。資本主義が強くなりすぎたこの時代にはただの綺麗事に聞こえる。でもね、もう一度思い出してみていいんじゃないか。現実にこんな事したらただの問題児として処理されてしまうが、こういった行動が認められる世界があったっていいよね。だからそういった意味でも「空想・浪漫」なのかなと。
「初代ウルトラマン」は原点であるものの、技術/予算的制約や子供向け番組という位置付けがあり、ウルトラマンのメッセージ、本質は大人になればなるほど忘れてしまう。
この映画ではそれをありありと分かりやすく描き直した傑作だと思う。
ウルトラ映画としては満点。