「個人のすれ違いから世界の軋轢へ」フェアウェル しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
個人のすれ違いから世界の軋轢へ
中国に母を残し、アメリカと日本で各々暮らす兄弟家族。母が癌で余命僅かと知り、兄の息子の結婚式にかこつけて、母には事実を秘密にしたまま、中国での親族一同大集合を目論む。が、弟の娘のビリーは、アメリカ的価値観のもと、告知をせず祖母に嘘を吐く事に納得できない。各自の考え方の違い、愛情と罪悪感に、中米日の文化差違も相まって、親族達はぎこちなく擦れあう。
告知、結婚、死生観などを通して、異文化での意識の差やすれ違いを描いた作品だが、ひいては、もっと根源的な、個人による考え方や感情の差違についての話でもあるように思う。
祖母のナイナイは、日本人嫁の控えめな様子に、まるで感情がないみたいと嫌悪感を表し、ビリーの母は、祖母への愚痴をビリーに咎められ、中国は葬式にプロの泣き屋を雇う国、大袈裟に泣いて見せなければ情が無いと言われる、と悪態を吐く。別れの日、何度も抱擁を交わし別れがたく、車の中でも遠ざかる背後の祖母からいつまでも目を逸らせないビリーは、ふと見上げた振り返りもしない隣席の母の目に、涙が滲んでいるのに気づく。
そんな風に、表現の仕方も、善しとする物事も違っても、奥底に流れる情には通じるものがある。けれど、表面に現れないそれを見誤って、誤解している事が多くあるのかも知れないなぁ、と、考えさせられるのである。
このご時世、時にユーモアも交えつつ、中国という国について、俯瞰と共感の両目線で表現している事に、大きな意義を感じる。中国系アメリカ人である監督ご自身の経験が反映されているのだろうが、折角なら日本の視点ももう少し盛り込んで、三国三つ巴色を強めにしたら、もっと深みを増したのでは、と思うのは、日本人故の贔屓目だろうか。
主人公のビリーは、大好きな祖母の死だけでなく、仕事が決まらない社会的立場、中国とアメリカ両国で揺れ動く人種的立場など、いくつもの不安を抱えている。移民の不安定さや差別の問題を示唆しているのかも知れないが、主題がぼやけ、キレが失われてしまっているように思われる。人々のすれ違いと根底にある愛情にのみ、グッと焦点を絞っても良かったのでは。
最後のオチも、個人的には不要。
ともあれ、一定以上の年になってくると、身近に感じざるを得ない【お別れの予感】。それに向き合う時、自身だけでなく、当事者本人や周囲の人々に思いを馳せる必要に駆られる。正解はなく、おそらく後に振り返って、感傷と後悔の軌跡が残るばかりだ。
誰もが共感できる身近な出来事を、世界の問題に大きく投影してみせた、ほんのり心温まる作品。