オフィサー・アンド・スパイのレビュー・感想・評価
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冒頭から目に飛び込む「水」の存在
「水の中のナイフ」にかこつけるわけではないが、個人的にポランスキー作品に触れる際は「水」の要素に警戒している。その意味で、まずハッとさせられるのは、本作の冒頭にてドレフュスが大勢の市民の目に晒されながら剣を叩き折られる屈辱的な場面において、広場の地面がなぜかじっとりと水に濡れていたことだ。今から考えると冤罪事件としての危険信号は既にこの時点から高鳴っていたのかもしれない。と同時に、本作が突きつけるのは、何もこの事件が過去の遺物ではないということ。為政者が国家ぐるみで真実をねじ曲げる行為はいまなお世界で深刻化しているように思える。その暗雲を切り裂き、正義と真相を追い求め続けるためにはどうすべきかーーー。19世期のドレフュス事件を知らない人にとってはわかりにくい部分もあるだろうが、この神経質なまでの緻密な作り込み方がたまらない。知らないうちに侵食されゆく恐怖や不条理感もポランスキー映画らしい。
ユダヤ人差別の根深さ
ヨーロッパにおけるユダヤ人差別の根深さを感じる映画。はるか昔にイエス・キリストを迫害した民だからといって、なぜここまで嫌われるのかよく分からない。キリスト教圏の人間でないと分からない感覚か。ちなみに第二次世界大戦時のナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺に対して、ドイツ人の多くは無反応だったと本で読んだことがある。このことからも、ヨーロッパにおけるユダヤ人の認識が窺える。
恥ずかしながら、ドレフュス事件がきっかけとなりシオニズム(ユダヤ人の国家建国)の運動につながったというのを、この映画を観る前にネットで調べて初めて知った。
後半では、ピカールやエミール・ゾラと言った面々が、ドレフュスの冤罪解決に向けて行動を起こす。見返りがある訳でもなく、そして自分の身に危険が及ぶ可能性があるのにもかかわらず、冤罪を隠蔽しようとする軍を告発するその勇気や覚悟は、生半可なものではない。
あと、同監督の『戦場のピアニスト』でも思ったことだが、ヨーロッパの街並みや自然が美しく撮れていて、そこも見どころ。史実がベースなので仕方がないかもしれないが、ラストはすっきりしない。
ユダヤ系ポランスキー監督のアイデンティティが勝ち過ぎたか…
ガザ地区での戦争のニュースを
毎日のように目にする中、
ユダヤ人が“約束の地パレスチナ”を目指す
切っ掛けの一つになったという
“ドレフュス事件”を扱った作品として、
また監督が「ローズマリーの赤ちゃん」や
「戦場のピアニスト」等、
たくさんの名作を提供してくれた
ロマン・ポランスキーということもあり、
「ゾラの生涯」に引き続いて初鑑賞した。
見事な作品と感動しながらも、
いかにも作り物ストーリー的な作風の
「ゾラ…」を観た直後ということもあり、
ピカール中佐を主人公とするこの作品は、
史実とは全く同じでは無いとは思うものの、
それでも「ゾラ…」よりはかなり実話に近く、
あたかもドキュメンタリー作品でも
観ているかのような感じさえもあった。
ラストシーンでこそ、
軍の中枢に入ったピカールが
体面重視の判断をする皮肉り描写で
締めくくってくれたが、終始、
淡々と実話を追ったかのような作風は、
ポランスキー監督らしからぬ
ドラマチック性に欠けた印象を受けた。
この作品、ヴェネツィア映画祭では
銀獅子賞・批評家連盟賞を受賞。
しかし、1世紀近い製作年度の比較に
意味があるかは分からないが、
日本ではキネマ旬報ベストテンで第76位。
同じ“ドレフュス事件”を扱って
アカデミー作品賞受賞と、
キネマ旬報で第16位の評価を受けた「ゾラ…」
と比較すると、日本では
それほど評価は高くなかったように見える。
ポランスキー自身が
ユダヤ系ということもあり、
結果的にアイデンティティが勝ち過ぎて、
エンターテインメント性には欠けた作品に
なってしまったのではないだろうか。
「戦場のピアニスト」「ゴーストライター」のロマン・ポランスキーが1...
「戦場のピアニスト」「ゴーストライター」のロマン・ポランスキーが19世紀フランスで実際に起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した歴史サスペンス。作家ロバート・ハリスの同名小説を原作に、権力に立ち向かった男の不屈の闘いと逆転劇を壮大なスケールで描き、2019年・第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した。1894年、ユダヤ系のフランス陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を言い渡された。対敵情報活動を率いるピカール中佐はドレフュスの無実を示す証拠を発見し上官に対処を迫るが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を命じられてしまう。ピカールは作家ゾラらに支援を求め、腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いに身を投じていく。ピカールを「アーティスト」のジャン・デュジャルダン、ドレフュスを「グッバイ・ゴダール!」のルイ・ガレルが演じた。
差別と冤罪
19世紀フランスで起きた冤罪事件ドレフュス事件をユダヤ人のロマン・ポランスキーが描いた力作。
フランス陸軍将校ドレフュスは身に覚えのないスパイ容疑をかけられる。その裁判は軍法会議で非公開で行われ、彼の有罪を立証するはずの証拠資料はずさん極まりなく、中には明らかな偽造証拠まで含まれていた。
いったいなぜこうも裁判で彼がたやすく有罪とされてしまったのか。それは彼がユダヤ人であり、当時欧州での根深いユダヤ人差別が反映されてのことだった。現に彼の無実を信じて戦ったピカールでさえ反ユダヤ主義だったくらいだ。
有罪となったドレフュスが投獄された後、防諜機関に配属になったピカールは真犯人はドレフュスでないことに気づくが、軍上層部は軍のメンツにこだわりいっこうにとりあってくれず、逆にピカールを情報漏洩の罪で告発する。
ピンチに立たされたピカールだったが支援者の力を経てドレフュス事件再審へとつなげる。
そして裁判の行方は反ユダヤ主義、軍部への不信と国全体を巻き込んだ大事にまで発展してゆく。その様は実に見ごたえがあった。
当時、欧州でのユダヤ人差別の根深さが背景にあるものの、冤罪が起きるシステムはどの時代、どの国でも同じだ。先入観、偏見が必ず出発点となっている。そしてその偏見からやがて証拠捏造という不正にまで発展し、冤罪が生まれる。
日本で起きた冤罪事件狭山事件は容疑者が部落出身者であり、はなから捜査機関は容疑者を犯人ときめつけた。捜査当時発見されなかった証拠が後から発見されるという不自然さからでっちあげが大いに疑われた。そして同時期に起きた袴田事件も証拠が後から出てきたことで、裁判所は証拠捏造の疑いが強いと断罪した。
驚くのはドレフュス事件は19世紀に起きた事件。しかし袴田、狭山事件は20世紀の日本で起きたということだ。そしてこの期に及んで検察は袴田事件の再審で有罪立証すると述べている。
そもそも被告人側が検察側が握っている無実を証明する証拠の開示を請求できる制度は日本にはない。すなわち被告人が無実を証明しようにもその証拠を検察が握っている限り無実の立証は困難なのだ。だからこそいまの日本では冤罪事件が絶えない。
戦後、袴田事件のような死刑判決まで出た冤罪事件は発覚しただけでも5件に及ぶ。冤罪と疑いがあるままに死刑執行された事件もある。
このような冤罪事件はけして他人事ではないだけにこの国で裁判にかけられるのだけは避けたいものだ。
教科書での数行の話が、、、
世界史の教科書に記載があった程度の知識しかない状態で鑑賞。観た直後は、そう単純な話でもないのだなあと感じましたが、そう深い話、複雑な話でもないのだなあと学びました。
以下、雑感
・組織は誤謬性を有する、無謬性を前提にしちゃダメだ。組織防衛が真実に優先されるようでは崩壊する。組織だけならまだねえ・・・。
・ユダヤ人差別の描写が弱いかなあ。いや、一通りやってましたけど、事件、顛末に大きな影響を与えたところなんで、変に当時のフランス人を庇っても仕方ないんじゃないかな・・。
・字幕監修が内田樹大先生でびっくり。
・序盤、演出上の理由でしょうけど時系列を変えていたりします。そのせいか、予断がはたらいて、場面場面の話のつながりが分からなくなるときがままありました。
なお、鑑賞後に改めてドレフェス事件を調べていたら、本作との齟齬が結構あるようです。
「間違っている」という一言を言う勇気
スパイの汚名を着せられたユダヤ系フランス人将校を救うべく立ち上がる、フランス人情報将校の苦闘を描く物語。
実際にあったドレフュス事件を描いた作品ですね。スパイ映画でもなく、サスペンス映画でもなく、冤罪を生み出した当時の社会や軍の不条理を描いた社会派ドラマでした。
ユダヤ人に対する偏見や差別が世界的に根強いことはしっていましたが、フランスでもここ迄強い差別意識があったことに驚きました。ナチス時代のドイツを観ているようで、その根強さに空恐ろしくなります。
間違いを認めたがらない軍の頑迷さ、間違った仲間意識の強さ、そして反ユダヤの社会。そんな悪条件の中だからこそ、立ち上がることが出来た主人公に尊敬の念を持ってしまいます。そして、それに協力する弁護士、マスコミや文化人達の存在も羨ましく感じます。
映画としては、サスペンス色を期待した私としては、少々物足りなさを感じます。
また、かなり割愛した作品になっているので、薄味だったり、分かり難さを感じてしまいます。
私的評価は普通にしました。
ドレフュス事件
知りませんでした。またひとつ、歴史の勉強ができました。
あんなにいい加減な捜査で有罪になって、離島に島流し。辛い獄中生活、なんとも気の毒。
こんなところでもユダヤ人差別があったんだ、と、、、。まだまだ知らないことがあるんだなあ!
100年ちょっと前の出来事
ロマン・ポランスキー監督の作品
19世紀フランスの軍隊で本当に起きた冤罪事件を
重厚な映像と演技によって取り上げたもの
さすがポランスキーです、物語へ引き込まれ感が半端ない。
主役のジャン・デュジャルダンの演技も素晴らしかった。
100年ちょっと前の出来事で昔のようでそんなに昔でもない。
こんなことがあったなんて、胸が痛みます。
史実物だけど、個人的にはイマイチ
約100年前の、軍内部の話。
全部史実ということなので、「誰が悪い」「正義が勝つ」
敵内容の裁判物じゃなかったので。
そこが物足りなく。
最初の30分見たところで、ピンと来なかった。
以後ずっとピンと来ないまま、終わってしまった。
軍法裁判という特殊な環境下で裁かれる恐ろしさを感じる。 真実よりも...
軍法裁判という特殊な環境下で裁かれる恐ろしさを感じる。
真実よりも軍のメンツを優先する上官。
そんな上官に逆らって調査を進めるのは命懸けのことだっただろう。
ただ、最初の1時間くらいはかなり退屈だった。
後半は結構見応えがある。
最終的にすっきりしたハッピーエンドではないというのも実話っぽくていい。
真面目と生真面目な男の話
2022/06/14@TOHOcinemasシャンテ 有楽町
ポスターの2人が対立するのかと思ったら違うんかい
前情報として実話だからこそ痛快などんでん返しはないと知っていたけど、たしかにもやっとした終わりかただった
とはいえ主人公の2人はそれぞれの正義を貫き通したのでよかった
不憫なのは殺されてしまった弁護士
これも前情報で知っていたが本当に決闘をしていた
ウテナ思い出した
ラストシーンに対して「お礼も言わず階級のアップを要求するなんてユダヤ人は図々しい」というような感想を見たが、人種に関わらず正当な要求であるので図々しくないです
最後2人が親交を深めなかったのは少し切ない
「ユダヤ人だから評価を下げている」
「差別的感情は入れないようにしている」
「それがすでに差別だ」
って会話にハッとした
ロマン・ポランスキーの映画 ノンフィクションです
「戦場のピアニスト」で有名なロマン・ポランスキーさん。
ピアニストのタイトルに引かれて、戦場だけど素敵な話に違いないと思い込んだ若き日の自分。
映画鑑賞後は、これが現実に?、と信じられず。原作本ではなく、戦場のピアニスト本人が書いた本を日本語に訳したものを購入して読みました(翻訳本なので今はプレミア価格本になっています)。
そこには映画以上の恐ろしい現実が書いてありました。ちなみに戦場のピアニストの息子さんは日本人と結婚して日本に住んでいます。
そんなこともあり、何となく「戦場のピアニスト」繋がりで、今回のロマン・ポランスキーさんの映画もチェックしてきました。
ノンフィクションですが「戦場のピアニスト」ほど恐ろしい描写も無く、ストーリーが淡々と進みます。ユダヤ人迫害もですが、それ以上に冤罪の恐怖を感じます。
冤罪は日本でも普通に多くあるので、怖いな~と感じました。
取り調べで辛くなり「自白強要で有罪」となった人の多くの冤罪被害者は、「裁判で無罪が証明される」と思ったと言っています。
ですが、少なくとも日本の裁判は起訴された時点で99.9%有罪確定が前提です。
つまり、「有罪を確定するための裁判」となっています。そのため起訴された時点で有罪確定なんですよ。裁判は有罪を確定する場所なんですよね。魔女裁判か?という状況です。
最高裁判所の扉は重く、有罪の確定判決に対する再審請求は、ほぼ通りません。
再審を通してしまうことは「裁判官が間違った判決を出した」という事実につながるからです。再審を通す人は退官覚悟のようです。
ユダヤ人だから冤罪にされたという映画の背景ですが、冤罪というものを考える映画でもあります。
エンタメ的要素はありませんが、重厚な雰囲気もたまにはいいものです。
考えるということが苦手な旦那の教育も兼ねて二人で見てきましたが、なかな考えさせられる映画です。
ロマン・ポランスキーさんも週刊誌で色々書かれるような件もありましたが、彼の人生の背景にユダヤ人迫害という辛い経験があったことも影響しているのでしょうか。
辛い経験は人格を壊してしまいます。
人種差別や迫害、戦争などが無い世の中になってほしいですし。
冤罪なども無い世の中であってほしいです。
警察も、裁判所も、事件を終わらせれば仕事は1つ処理済みになります。
現在の日本でも冤罪が非常に多いことを、映画を見て思い出しました。
いい内容なので、ぜひ。
エンタメにし過ぎないことに好感
知識が無かったからちょっとキツかった。だからなのか公式サイトの内容が充実してる。
エンタメに出来るストーリーだけど話を淡々と描写していて好感持てた。
暗くて魅惑的な建物の中、部屋の中マニア御用達
ポランスキー印(じるし)とは何か?
ある特徴的なディテールにそれは出ている。暗ぼったい建物の中を魅力的に描くという点だ。
螺旋階段の踊り場に玄関のあるアパート。これはポランスキーの映画、『テナント』や『ローズマリーの赤ちゃん』や『反撥』や『ナインス・ゲート』にも出てくる。こういうフランス、ヨーロッパならではのアパートが今回もたくさん出てくる。
ポランスキーは間違いなくアパートマニアだ。
あと、通りからアパートの建物に入る前のデカい扉。
扉に入ると大家か守衛がいる。
デカ扉と大家か守衛もセットでポランスキーの映画によくでてくる。
軍の防諜部の建物だって螺旋階段、守衛も映す。
螺旋階段の手すりや壁の色や模様階段に敷かれた絨毯などが、異様で猥雑な闇の深い感じ、かつクライブ・バーカーのホラー小説の世界のような魅惑的なムードを醸し出している。
部屋の中は暗い。黒を基調にした木製の家具、調度品が並び小綺麗で、生活感があり、阿片窟のような?リラックスできそうな雰囲気が漂っている。
フランスの暗くてこ綺麗で不気味なアパートが大好きな人は最高に楽しめる。
機密情報省の中も、書棚や資料棚に溢れて、飽きない。
資料を納めた沢山のポスト口は素晴らしかった。
筆跡鑑定の事務所の写真棚も素晴らしい、写真棚から資料棚、そして結びを解いた後に出てくる沢山のゴミ屑のような資料。ペリペリパリパリ音を立てながら、ボロ紙の資料を几帳面に扱う様はなぜか心地よい。
ポランスキーは、常に建物や部屋のなかを魅惑的に美的に描く点でほんとにいつも素晴らしい。ある特定の建物や部屋の中を描いているだけなのに、想像が膨らんでパリ全体がものすごく魅惑的な街のように思えてしまう。空から俯瞰した街並みははっきりいうと出てこない。石畳の道路とちょっとしたカフェや酒場、法廷や将軍の部屋といったあくまで建物の内側が専門なのだ。それなのにパリは楽しくて魅惑的な街に思えてしまう。
社交の場である演奏会場では、ポランスキーもチラッと出ていた。部屋の中の綺麗な調度品として。部屋の中のディテールの一部として。
建物や部屋の内側こそポランスキー映画の醍醐味であり、この映画はその点をもって最高の映画である。
88歳監督の作品は観なければ・・
若い・・
新鋭監督の作品を鑑賞するのは
嫌いではない・・私。
「水の中のナイフ」を見たのは、
ロマン・ポランスキー監督の
『ローズマリーの赤ちゃん』
『チャイナタウン』
『テス』
『戦場のピアニスト』
『ゴーストライター』
『おとなのけんか』
この辺りを鑑賞後に見ました。
ロマンポランスキー監督作品・・
意外にも、観ている作品が多いと
あらためて、気づきましたが・・
私は、「ナインスゲート」『ゴーストライター』
がお気に入り作品でしたが、
本日『オフィサー・アンド・スパイ』は、
先ず話の内容を置いといても、素晴らしい。
役者さん達の声に音に音楽・・画像だけでも
心地よく眺めることが出来る作品。
その中に、歴史的な話がありますが
先ずは、一人でも多くの方に、この作品に
触れて欲しい思いが一番です。
鑑賞後の私のコメントは、正直難しいのですが
私は、アニメ 「魔法少女まどか☆マギカ」
を筆頭に
アニメが好きなんです。
『オフィサー・アンド・スパイ』鑑賞も
ストーリー的には、
アニメを見る感じで鑑賞してましたので、
難しい問題は、なんとなく頭の中で変換・変更で
紡ぎながらの鑑賞になりましたが・・
大変満足させて頂きました。
そして、その後すぐに
町山智浩さんの解説を読み
さらに、
またこの作品を推したくなりました。
是非是非 一人でも多くの方に
観て欲しい作品であります。
正義を貫き通すことの難しさと尊さを訴えた力作
己の正義を貫き通すことの難しさと尊さを真摯に訴えた力作だと思う。
ここで描かれているドレフュス事件は、フランスでは大変有名で、世界史的に見ても国家的冤罪事件としていまだに語り継がれている出来事である。
自分は、本編にも登場する作家エミール・ゾラの半生を描いた伝記映画「ゾラの生涯」を観ていたので、この事件のことは知っていた。ただ、「ゾラの生涯」はゾラの視点で描かれた物語だったこともあり、事件の経緯や内情については詳しく語られていなかった。本作ではそのあたりが事件の当時者を含め詳細に語られている。改めてこの事件を別の角度から知ることができ、冤罪の恐ろしさを思い知らされた。
そして、本作で忘れてならないことはもう一つあるように思う。それは事件の背景にユダヤ人差別があったということだ。ドレフュスに容疑がかけられた理由の一つに、彼がユダヤ人だったということがある。軍内部はもちろん、主人公のピカールさえ反ユダヤ主義であり、おそらく当時のフランスではこうした風潮が相当に強かっただろうと想像できる。後にナチスの台頭でユダヤ人の弾圧が強まっていくが、その片鱗はすでにこの頃から欧州全体にあったということがよく分かる。
冤罪、人種差別、体制の隠蔽体質等、この映画には様々な問題を見出すことが出来る。そして、これらは何もこの事件に特有のものではなく、現代にも通じるものであると気付かされる。本作をただの史劇と一蹴できない理由はそこにある。実に普遍性を持った作品だと言える。
監督、脚本を務めたロマン・ポランスキーは、自身もホロコーストの犠牲者であった過去を持っている。それだけにユダヤ人として差別されたドレフュスの悲劇には一方ならぬ思いがあったのだろう。
と同時に、彼はアメリカ在住時に少女への淫行容疑で逮捕されたことがある。本人は冤罪を主張し、アメリカを追われ、いまだに入国できないでいる。自己弁護ではないが自らの黒歴史を清算すべく本作を撮った…と捉える人もいるだろう。
こうしたスキャンダラスな意見が出てきてしまうのは仕方のないことだが、作品そのものの出来について言えば、映像、演出、ともに完成度が高く、改めてポランスキーの熟練した手腕には唸らされる。
ただし唯一、終盤が性急で今一つキレが感じられなかった点は惜しまれた。このあたりは物語のバランスの問題だと思うが、ピカールの捜査に重きを置いた結果という感じがした。
ともあれ、製作当時ポランスキーは86歳。この年でこれだけパッションの詰まった作品を撮り上げるとは、正直驚きである。残りの人生であと何本撮れるか分からないが、いまだに衰え知らずといった感じで頼もしい限りである。
【”反ユダヤ思想による、ユダヤ人陸軍大尉に処された真実に基づかない罪。”証拠捏造、文書改竄、法廷での虚偽の発言、軍上層部の愚かしき姿。今作で描かれる事は、現代でも起こっている事なのである。】
ー 19世紀末、フランスで実際に有った「ドレフュス事件」の映画化である。
ドイツに機密を漏洩したとして、スパイ容疑で終身刑になったユダヤ人陸軍大尉ドレフュス。(ルイ・ガレル)
だが、対敵情報活動を率いるピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、ドレフュス大尉の無実を確信し、対処を上層部に迫る。
しかし、上層部は、国家的スキャンダルになる事を恐れ、逆にピカールは左遷される。
全てを失いながらも、尚、信念を貫くピカールは、ラボリ弁護士、作家エミール・ゾラらに支援を求める。
だが、行く手には、腐敗した権力や、反ユダヤ勢力との過酷な戦いが待っていた。-
◆感想
・冒頭、”この作品は実在した事件、関係者を描いている”と文字が流れる。
そこからの、自らも反ユダヤ思想を持つ、ピカール中佐が、事件の真相に近づいていく過程は、スリリングで面白い。
・軍の上層部や、防諜部の旧弊的な思想を持つアンリ少佐らも、あらゆる干渉にもめげずに、真を追求していくピカール中佐の姿は、見応えがある。
ー 投獄されても、真実を追求する姿には、敬服する。-
・残念だったのは、登場人物が多く、物語の把握に脳内フル回転で対応するも、ややボケてしまった箇所が幾つかある事である。
・ポーリーヌ(エマニュエル・セニエ)と、ピカールの不倫関係は、この作品に必要だったのであろうか。
ー マア、監督がロマン・ポランスキーだからねえ・・。奥さんを出演させたかったのかな?いや、違うな。ピカール中佐も、一人の人間だったという事を示したかったのであろう。-
<現代の日本社会でも、隠蔽や証拠捏造、文書改竄は、政治、経済社会で普通に行われている事は、御承知の通り。
国会での不毛な論戦の数々・・。
今作は、過去の出来事ではない。歴史は繰り返すのである。>
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