「冒頭から目に飛び込む「水」の存在」オフィサー・アンド・スパイ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭から目に飛び込む「水」の存在
「水の中のナイフ」にかこつけるわけではないが、個人的にポランスキー作品に触れる際は「水」の要素に警戒している。その意味で、まずハッとさせられるのは、本作の冒頭にてドレフュスが大勢の市民の目に晒されながら剣を叩き折られる屈辱的な場面において、広場の地面がなぜかじっとりと水に濡れていたことだ。今から考えると冤罪事件としての危険信号は既にこの時点から高鳴っていたのかもしれない。と同時に、本作が突きつけるのは、何もこの事件が過去の遺物ではないということ。為政者が国家ぐるみで真実をねじ曲げる行為はいまなお世界で深刻化しているように思える。その暗雲を切り裂き、正義と真相を追い求め続けるためにはどうすべきかーーー。19世期のドレフュス事件を知らない人にとってはわかりにくい部分もあるだろうが、この神経質なまでの緻密な作り込み方がたまらない。知らないうちに侵食されゆく恐怖や不条理感もポランスキー映画らしい。
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