「僕のイメージどおりのフランス映画」オフィサー・アンド・スパイ とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
僕のイメージどおりのフランス映画
人種差別、事なかれ主義、悪い意味での上意下達ぶりなど、もはやステレオタイプといってもいいくらいの「大組織あるある」のてんこ盛り。
主人公は、正義感というよりも組織人&軍人としての合理的精神に基づいて、間違いを正そうとしているように見えた。
法廷ドラマでよくある大逆転劇は起きず、マスコミ&文芸&ユダヤ組織の連合で対抗したものの、結局は軍部側の雑な捏造がバレましたってことらしい。
無論、その自爆を導いたのは主人公たちの粘り腰ゆえではあるのだけれど、そこを過剰に演出しないのが「いやー、僕が思うフランス映画っぽいなー」と思った。
主人公は人妻との不倫関係をずっと続けているし、彼女の離婚が決まりかけてもなお婚姻関係には至らない。
アメリカ映画なら確実に再婚するだろうに。
ラストシーンも、冤罪を晴らした軍人と出世した主人公とが、個人的な友好を深めたわけではないということが明らかになるだけ。
でも、鑑賞後の気分は決して悪くない。
すべての隣人を愛することができれば、それはそれで理想的かもしれないけれど、本作のようにヒューマニズムではなく組織&職業の倫理に基づくやりかたでも、ある種の正義は達成できるのではなかろうか。
映画「ドリーム」では、「職業上のミッションを達成するための不合理を排除する」という観点から、人種差別への批判が描かれていた。
本作も同様に、人間として理想的な倫理観を持ち合わせていなくても、己が所属する組織や仕事に誇りがあるからこそ、それらを貶めたり職務の遂行に不要だったりする「無意味な嘘」は排除すべし、という論理は納得できる。
むしろ、一点の曇りもない正義というものには警戒が必要だと思う。
いわゆるハリウッド映画的なカタルシスには欠ける作品だけれども、だからこそ自分の生活の延長線上にある=他人事ではない物語だと思った。