「ポランスキー監督に敬意を表して」オフィサー・アンド・スパイ bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
ポランスキー監督に敬意を表して
史実に基づく物語り。との事。
でですね。
「これは過去の物語りでは無い」と言う謳い文句。
国家権力による事実の隠蔽。情報の改竄。
って事を言いたいんでしょうけど。
それだけじゃねーよ。
国家機密情報の漏洩。これ、現在の日本から、あっちゃこっちゃに漏れまくり。のみならず。工作員もワンサカ活動中。
って事で。「スパイ」も過去の物語り、他人事じゃないですもんね。
映画本編は、ピカール中佐を軸として、テンポよく淡々と進んでいきます。見やすくて分かりやすい、親切設計です。電子データによる通信が存在しない時代、アナクロで現物主義。証人による証言に頼る裁判は中世的でもあり、権力者の思い通りに進むだけやん!と言う絶望感に満たされて行きます。
劇中、速射能力が向上した75mm野砲が登場しますが、年代的にはM1897 75mm野砲と思われ。これは、砲撃の反動を、砲身のみを後方にスライドさせることで減衰すると言う、革命的な野砲で、フランスで開発・製造されていました。ドイツが開発した野砲は、砲身のスライドに液圧とバネを使うハイブリッド方式。フランスの気圧式に比べて、大型で重量がありました。野砲は軽量であればあるほど機動力が高いため、フランスの野砲はドイツ製に比べ、運用上圧倒的なアドバンテージを有していました。
ドイツは、その設計情報が、のどから手が出るほど欲しかったと思われ。結局、設計情報は得られないまま、もしくは手に入ったが製造に成功しないまま、第一次世界大戦に突入します。
ちょっと意外だったのは、これほどの機密情報を漏らした(冤罪じゃあるけれど)にも関らず、軍法裁判の判決は禁固刑なんだ、と言う事でした。これが帝国陸軍なら切腹ですもん、確実に。
贅肉無しでサクサク進む物語りは、リアリティに富んでいて好印象ですし、顛末のビターな感じも、個人的には好き。野戦では戦況を左右しかねない機密だったと思うんですが、演出がサクサクし過ぎてて、そこんとこもサクサクと流れてしまった点が、ちょっぴり残念ではありましたが。
良かった。普通に。