「Martin Eden」マーティン・エデン 重金属製の男さんの映画レビュー(感想・評価)
Martin Eden
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米文学作家ジャック・ロンドンについては、その名前と著作『野性の呼び声』を知っているだけだった。学生時代に必修科目で『野性の呼び声』の作品分析をせねばならず、一読したところであまり興味の持てない内容だったのを思い出す。そんな私が今作にのめり込めるのか定かではなかったが、単純ながらたまたま見かけたフライヤーの出来とイタリア映画であることに惹かれ観ることにした。
前半のストーリーはありきたりだった。大成した作家には、大抵雑誌への掲載を目指して執筆を重ねてはなかなか実現に至らないなどの困難が付き纏っているものだ。そしてその過程には必ずと言っていいほど愛する人の存在がある。小学校を途中で辞めてしまったマルティンがエレナと同じ景色を見ようと独学で文学・教養を学ぶ姿勢とそこへ注がれる情熱は確かに凄まじかった。学校で学ぶことだけが決して人間に何かを芽生えさせる可能性にはなり得ないのだろう。
しかしながら彼が作家になろうとした目的は名声を得ることだったのだろうか?身を削り書いてきた作品がようやく雑誌へ掲載され、名声と富を得てからのマルティンはまるで恐ろしい程に別人だった。どこか絶望を感じさせる薄汚れた表情。かつては愛し合っていながらも出自や思想の違いゆえすれ違ってしまったエレナとの再会も、もはや何の救いにもならなかったのだから。
マルティン・エデンのモデルであるジャック・ロンドンは40歳の若さで自死している。汚れたシャツで浜辺に佇み、海へ還っていくマルティン。船乗りとして航海していた彼の最期には、縋れる船もなかったということなのかもしれない。あまりにも美しい夕陽と海が切なかった。
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