「主人公マーティンを演じるルカ・マリネッリの迫真の演技に最後まで目が離せない」マーティン・エデン スクラさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公マーティンを演じるルカ・マリネッリの迫真の演技に最後まで目が離せない
マーティンは学ぶことを途中で止めた労働者階級の船乗り。ある日、港でいざござに巻き込まれている男性を助けたことをきっかけに上流階級の家庭の娘・エレナと出会い恋に落ちる。彼女との恋を成立させるためには、自身も上流階級に上らなくてはいけないと考えたマーティン。それは、はたまた船乗りが新たな航路を選ぶように、マーティンはエレナと結ばれるという目的地のための手段を選んだ。それは文学で成功し、作家となることだった。
最初は恋を成就させるためにひたむきに文学の道を志す純粋な男性がそこにいた。しかしながら、学も十分に無く、それまでのキャリアも無い彼の応募作品は歯牙にもかけられず、全てが「送り主へ返却」と突き返された。それでも、文学で成功することに執着するマーティンの心が次第に変化していく様をルカ・マリネッリが見事に演じている。彼は全身、得に目で演技ができる演者だと思った。ヴェネチア国際映画祭でホアキン・フェニックスを抑えて男優賞に輝いたのも頷ける。
いつしか作家になることは手段ではなく、目的になり、エレナとの関係性も雲行きが怪しくなる頃、純粋だった青年の目にはやがて狂気と表せばいいのか、悲嘆と表せばいいのか、何とも言えない感情の色が映し出されていた。本当にルカ・マリネッリの演技に感服する。
映像の撮られ方も独特だった。たしかフィルムを使い分けていたと試写会後のアフタートークで話していた。比喩的な映像が所々に差し込まれ、それが何を意味するのかは観る人に委ねられる。2度、3度と観れば、あの場面の意味が分かり、より作品に深くのめり込めるような演出が素敵だった。
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