「全てを失ったわけではない」マリッジ・ストーリー Movieアパートさんの映画レビュー(感想・評価)
全てを失ったわけではない
良作を次から次へと送り込んでくるネットフリックス 映画。このキャストでこの企画であれば劇場公開作品としても普通にお金を出すところはあっただろうが、そういう作品をきちんと見つけて制作してくる辺りにネットフリックスの 従来の劇場公開形式の作品と比べて質で劣るわけにはいかない という気概を感じる。
まず冒頭、二人がお互いの好きなところを挙げていくのを見せられた時点でもう、どうしたってこの二人の物語に観客は引きずり込まれてしまう。
このシークエンスの主演二人の演技の確かさがとにかく素晴らしく開始5分ですでにこの映画は勝利していると言っても過言ではない。
この冒頭部分の二人の確かさがあるからこそ、その後に二人が支え合い すれ違い 傷付けあい それでも確かに愛し合う姿の全てが愛おしい…
当初は出来る限り穏便に離婚しようとしている二人が、部外者が関わり始めたことで少しづつ二人の心情とは別領域の力関係に引っ張られ言ってしまう様子はとても心苦しい。
ローラダーンとレイレオッタは一見すると 余計なことしやがって! と言われかねないキャラだが、この二人の姿を通して 二人の人間が一緒に生きる と言うことのそもそもの危なっかしさ みたいなものが浮き彫りになるし、その視点はこの映画に絶対に必要なのでこの二人が果たした役割はとてつもなく重要だったと思う。
そんな主演二人の演技力が最も爆発するのはやはり、
夫婦の大喧嘩シーンだろう。
愛しているからこそ、相手を傷つけようと思えばいくらでも傷つけることができる二人が、全てをかなぐり捨てて互いに傷つけ合う姿はまさにこの世の地獄!
何でこんなことに… 愛してたのに…
と泣き崩れるアダムドライバーの姿にはもう完全にもらい泣きである 史上トップクラスの夫婦喧嘩シーンだろう。
とにかく、人が愛し合うという事 の難しさをとてつもないパワーで見せつけていく本作だが、
それでも、いやだからこそ、この映画が最後にたどり着くのは 人を愛する という行為の確かな尊さであるというのが何しろこの映画の素晴らしいところ。
傷つけあいの果てに、二人で生きる人生は永遠に失われてしまったとしても、それでも二人が出会い、愛し合ったことは確かに二人の人生にとって意味があったのだ
という暖かなメッセージが冒頭のやり取りをうまく絡めて綺麗に回収されるラストには只々感動。
良い役者を、良いシナリオで、確かな演出で撮る
このシンプル 且つ 映画制作において最も重要なこのステップをネットフリックス が踏めることを確かに証明する映画だった。
素晴らしい