劇場公開日 2019年11月29日

「ロイヤー・ロイヤー」マリッジ・ストーリー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ロイヤー・ロイヤー

2019年12月14日
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アカデミー作品賞の有力候補として『ジョーカー』の対抗馬にもあげられている本作だが、離婚訴訟を扱った秀作『クレイマー、クレイマー』のリメイク的内容にとどまっており、前評判倒れといった感じの1本だ。ウェス・アンダーソン作品の脚本も何本か書いているバームバック、実は初監督作品となる『イカとクジラ』も観ているのだが、ウェス作品同様自分が苦手とする部類の作り手である。自身の離婚経験を反映させたという本作は、おそらくハリウッドでの映画化を断られやむなくNetflix配信となったのだろうが、そのプロデューサーの目に狂いはなかったという証拠だろう。

新鋭舞台監督として世間に注目され出したチャールズ(アダム・ドライバー)と元ハリウッド女優で現在はチャールズが主宰する前衛劇団の看板女優ニコール(スカーレット・ヨハンソン)の夫婦には、一人息子ヘンリーがいる。長期間にわたる家庭内別居に嫌気がさし、たった1度だけチャールズが浮気したことが原因で離婚を決意するニコール。当初は穏便な協議離婚を考えていた2人だが、やり手弁護士の口車にのせられて一人息子ヘンリーの養育権をめぐる泥沼の離婚訴訟へと発展してしまうのだが…

稼ぎがあり、家事もこなす子煩悩なイクメン夫チャールズのどこがそんなに不満なのか、男の自分にはよくわからんが、要するにハリウッド女優だった頃の栄光が忘れられず、結婚当初は自分より地位の低かった夫にいつの間にか夫婦のポジションを逆転されたニコールのジェラシーが、この映画に描かれている離婚の根底にあるのではないか。女優の奥様との離婚経験があるバウムバック監督ならではのリアリティは感じるのだが、男の私からしてみれば、スカヨハのわがままに付き合わされ全てを失いかけたアダムが不憫でならないのである。

しかもこの離婚で一番の被害を被るヘンリー少年の気持ちがほとんど描けていないという事実が映画としては致命的な気がするのだ。メリル・ストリープ演じる奥さんが突然の家出、仕事人間のダスティン・ホフマンが家事に育児に悪戦苦闘しながら子供との絆を深めていくシナリオになんとも言えないカタルシスを感じるクレイマー2に比べると、両親のエゴだけが大人目線でクローズアップされた本作の演出は、○○賞には輝いたのかもしれないがやはり一般受けは難しいのではないだろうか。

ミュージカルの代名詞ブロードウェイを抱えるNYと、映画の都ハリウッドがあるLAを対比させた演出は、『イヴの総て』と『サンセット大通』の対決を思い出させるが、両親の離婚にしらけっぱなしのヘンリー少年にしてみればどうでもいいこと。「母親は聖母マリアと同等の品格を求められる」とはいいながらボディコンスーツに身をかためるローラ・ダーンと「(離婚訴訟における弁護士の仕事は)善人を貶めること」と言いはなつレイ・リオッタによる弁護士同志のえげつない応酬が最も盛り上がっていただけに、クレイマー2を真似たラストの和解シーンなどこの映画にはそもそも不要だったのかもしれない。

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