「最高の「人間関係」映画」マリッジ・ストーリー andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
最高の「人間関係」映画
東京国際映画祭にて。
アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが離婚訴訟でドロ沼になる話。だがしかし、それだけではない、泣けて笑える「人間関係」映画。
夫婦がふたりして大変頑固で負けず嫌い。最初は戦う気もなく穏やかに離婚するはずが、あれよあれよという間に弁護士が入って話がややこしいことに...。
スカーレット・ヨハンソンの台詞量が膨大。女性の心情が爆発するシーンである。夫にいつの間にか抑圧されていた妻、妻と母になるあまり自分が分からなくなってしまった女性。才能溢れる似た者夫婦って大変だなあと考えてしまう。
対するアダム・ドライバーは常に悪手悪手を無意識に取っていく夫である。彼は妻の鬱屈というか複雑な感情が理解できないので色々困った挙句、常に「嗚呼そっち選ばなきゃ良いのに...」というルートを歩んでゆく。なんというか、自業自得な面もありつつ哀れというか、本当に哀しい男の姿である。
冒頭で互いの良いところが列挙されるけれど、現実は全く互いの気持ちを伝えられない夫婦。最初にあれ伝え合っていたら変わったのだろうか。大岡越前のやつみたいに子どもを引っ張り合っちゃったり。どちらも必死で、物悲しくて。
お互いが話し合おうとしても結局ヒートアップしてしまう頑固なふたりに胸が締め付けられてしまう。完全に思ってないことまで口に出してしまうあるあるだ。
ここまでドロ沼のような展開にしても、この物語は温かく笑える話に仕上がっている。女弁護士ローラ・ダーン最高。いやお前がいなきゃ話がこんなにややこしくは...とも思うが(いや、でもあのふたり絶対結局揉めてたよなとも思う)、台詞や仕草がいちいち面白い。そして良いこともいうのだ。
妻の家族のやり取りもおかしいし、台詞のテンポというか、間が良いので、うなだれるシーンでもついくすりとなってしまう。笑ったり泣いたり、感情が緩やかにしかし大きく揺れ動く136分。楽しかった。
アダム・ドライバーもスカーレット・ヨハンソンの夫婦のリアリティが凄い。とにかく上手くいかないアダム・ドライバー、歌うアダム・ドライバー、膨大な心情吐露が迫るスカーレット・ヨハンソン、そして表情の機微が素敵なスカーレット・ヨハンソン。スクリーンで観てよかったわ。人間関係をここまで、映画的かつ笑い泣きしながら見せてくれるのは最高だと思いました。