「元教師が挑むささやかで切実で型破りな終活」私のちいさなお葬式 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
元教師が挑むささやかで切実で型破りな終活
ロシアの小さな田舎町で一人暮らしをしている元教師のエレーナは主治医からいつ死んでもおかしくないと宣告される。自宅で昏倒し病院に担ぎ込まれたエレーナの元へ離れて暮らしている一人息子のオレクが駆けつけるが、多忙なオレクはすぐに仕事に戻ってしまう。迫っている死期を悟りながらもオレクを煩わせたくない一心のエレーナはかつての教え子や友人達の力を借りながら型破りな終活を始めるが・・・。
どこに行っても教え子に遭ってしまうような小さな町で夫の墓の隣に埋葬されたいというささやかな願いの前に横たわる様々な障害を真正面から突破するエレーナと彼女の奮闘に巻き込まれる隣人達が織りなすおかしなドラマですが、彼らやオレクが思い出すエレーナから教わったことにも滲んでいる通り彼女の行動はあくまでも知性に裏打ちされた真面目なもの。その真摯さが隣人達の歪に閉ざされた固定観念をパックリとこじ開ける様はとにかく痛快。
一方でその町に横たわっているのはアル中と老人しかいないという田舎あるある。そんな現実も容赦なく見せることでエレーナの願いが ささやかでありながら身につまされるほど切実であることが浮き彫りとなっています。火葬されることを本気で嫌忌するお年寄り達、冷蔵庫から奇跡的に生還する鯉、そして『恋のバカンス』。突然さりげなくやって来る終幕を彩るのはモノクロなのに鮮やかな想い出たち。老夫婦が終活の旅に出る『ロング、ロングバケーション』と通底する切なさと温かさに満ちた美しい作品でした。
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