「男は誰でも二度生まれる。一度目は母の子宮から。二度目は父から離れるとき。」台湾、街かどの人形劇 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
男は誰でも二度生まれる。一度目は母の子宮から。二度目は父から離れるとき。
台湾の人形劇「布袋戯」の人間国宝、陳錫煌。彼を追いかけたドキュメンタリーである。
この老人に感じたのは、孤独であった。
偉大であった父とも、自分の息子とも会話はないという。なのに戯劇の神様とは会話を交わす。父に認められずに、今だその亡霊に悩まされているようで。息子にも気を許せず、肉親を愛する術を知らぬかのようで。そんな彼が自分の存在を確かめるには、布袋戯に打ち込むことしかないような。
布袋戯は、かつて台湾の街の角々で催されていた大衆芸能だった。それが今では、客足は他の娯楽にとってかわられた。今、布袋戯を支えている人たちは老人ばかりで外人までいる。次世代がしっかりと受け継がなければ、先が見えているのに。でもこうして世界中の、民衆の暮らしに寄り添った芸能は消えて行っている。
制作者は言う。結果的に我々が記録しているのは、布袋戯の終焉、それとそれにまつわる悲喜交々ね、と。陳氏はそれを痛感しているからこそ、惜しみなく記録に協力し、技を開示するのだろう。布袋戯を通して、我が生きた証をとどめようとして。
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