「不純物を取り除いてアルコール度数を高めた 極上のバーボンウイスキーのような王道エンターテインメントに酔いしれる!」トップガン マーヴェリック 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)
不純物を取り除いてアルコール度数を高めた 極上のバーボンウイスキーのような王道エンターテインメントに酔いしれる!
自分は前作にはそんなに思い入れがない人間なのだけれど(音楽はメチャクチャ好きだった)、今作を観てかなりビックリさせられた。
自分が年を取ったということもあるかも知れないけれど(笑)、前作を遥かに超えるレベルで心に突き刺さってきて、観た後に心地よい陶酔感があったのである。
ここまで純度が高い娯楽映画に出会えることは滅多にない。と、言うか金輪際ないかもしれない。
あまりにも純度が高すぎて中毒患者が出るんじゃないかと心配になるレベルであり(笑)、実際ハマりまくってる人も多いようで、さもありなんと思う。
この「純度が高い」というのは、決して単純という意味ではない。
作品のテーマやビジョンを絞り込んで、そのテーマやビジョンに沿わない余計なエピソードを徹底的にカットしているということである。
そうすると、あたかも酒を作る時に蒸留して不純物を取り除くとウイスキーのようなアルコール度数の高い酒が出来るように、観るものに強烈な印象を与える純度の高い映画が出来上がる。
私見であるが、映画にとって「純度の高さ」というのはかなり重要な要素である。
たとえ物語が破綻していたとしてもツッコミ所が多かったとしても、純度が高ければその映画は面白い映画になり得ると自分は考える。
この作品はストーリーもシンプルであるが、純度の高い映画が必ずしもシンプルな作品というわけではない。例えば『オッペンハイマー』は、「オッペンハイマー個人の内面の苦悩」という部分に焦点を絞って純度を高めている映画なので、時間軸が交差して話がゴチャゴチャとややこしくなっても強烈な印象があとに残る作品になっているのである。
結局、監督の中にその作品で何を描きたいのかという明確なテーマやビジョンがあるかどうか、そこが大事なのだと思う。
この作品に関して言えば、テーマとしてノスタルジーというのは当然あって、前作ファンの涙腺を刺激するような作り方は見事と言う他ないのだけれど、劇中で描こうとしていることは二つしかない。
一つ目は「不可能に近い困難なミッションに挑む」であり、二つ目は「ミッション遂行の中で仲間との絆を結ぶ」である。
この二つは前作とほぼ同じなのだけれど、今作はミッション遂行のための事前計画という明解なレールを敷いた上で余計な夾雑物をことごとく削ぎ落として徹底的にこの二つを効果的に見せようとしている。
例えば、この映画について、好戦的だという批判があるが、もしこの映画に反戦というテーマをさらに持ち込んで、敵兵も自分たちと同じ人間であるという描写や、出撃する主人公が倫理的に悩むシーンなどを入れれば、それだけ本来描こうとしている「困難なミッションに挑む」と「仲間との絆を結ぶ」に水を差すことになり純度が低くなってしまう、すなわちつまらない映画になってしまうのである。
欲を言えば、ほんのちょっとでいいから戦争というものの是非について言及するようなシーンがあっても良かったような気もするが、やっぱりそれをすると主人公の行動原理に水を差すことになり、引いては観客の没入感や陶酔感に水を差すことになってしまうだろう。
反戦というテーマそのものは非常に意義のある良識的なテーマなのだけれど、この映画に関してはそれは不純物になってしまうのであり、純度の高い映画を作ろうとするときにそこで下手に迷ってはいけないということを作り手側はわかっているのである。
それは、開き直っているというより、純度の高い面白い映画を観客に届けるために覚悟を決めている、と言ってもいいと思う。
その作り手の覚悟をよしとするか拒絶するかでこの作品に対する評価は分かれてしまうかもしれないが、それは「戦争」という今も地球上のどこかで起きている切実な問題とつながった映画を作る以上はどうしても避けられないことなのだろう。
異論があるのは承知の上で言うのだけれど、自分は映画を観る醍醐味というのは腕利きの職人が作る純度の高い酒に酔いしれるようなものだと考えている。
それは娯楽映画だけでなく文学的な映画や哲学的な映画のような難解な映画であったとしても同じで、文学の香りのする酒に酔いしれ、哲学の香りのする酒に酔いしれるものなのである。
また、フィクションだけでなく現実を鋭くえぐるようなドキュメンタリーであったとしても、映画である以上はやっぱり監督の手腕に酔いしれるものだと自分は考える。
映画が観客を「酔わせる」ものであるからこそ、時には戦意高揚やプロパガンダにも利用されてしまうわけで、そこは観る側として常に気をつけなければならないところではあるだろう。
世の中にはストロング系酎ハイのようなアルコール度数を高めた安酒みたいなB級娯楽映画もあったりして、それはそれで面白くて大好きだったりもするのだけれど(笑)、この作品は決して安酒ではない。
マーヴェリックという孤高の天才パイロットが年齢を重ねた時どういう生き方をしているのか。前作から36年!も経った今回の作品でどうやったら彼に再び輝きを与えられるのか、ということを監督やトム・クルーズをはじめ作り手たち、俳優たちが考えに考え抜いて精魂込めて作り上げた極上のバーボンウイスキーである。
せめて映画館の暗闇にいるときくらい、この極上のバーボンにとことん酔いしれたい。
映画館を一歩でたら、大人はいやでもめんどくさい現実と向き合わなければならないのだから(笑)。
もちろん中には自分は常にシラフでいたい、冷静でいたいという人がいても当然で、そういう人にはこの作品はお薦めしない。
ただ、映画を観る醍醐味が「作品に酔いしれる」ことだとしたら、常にシラフでいようとする人たちはそもそも映画というメディアを必要としない人たちだろう。
映画を酒に例えるのはあんまり正確ではないかもしれないけれど(笑)、この作品はアメリカ産の極上バーボンウイスキーのように純度の高いハリウッド産の王道エンターテインメントであり、年齢を重ねた大人だからこそ心地よい陶酔感を味わえる絶品の名酒だと自分は思う。
まさしく極上のバーボン、あるいは36年モノのワインみたいな味わいですね‼️前作を完璧に超えた続編‼️36年ぶりの続編を映画館での公開にこだわって届けてくれたトム・クルーズに感謝ですね🎬