劇場公開日 2020年7月31日

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「玉手箱を開ける開けないのは私たちの考えひとつだと大林監督は言われたのだと思います」海辺の映画館 キネマの玉手箱 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0玉手箱を開ける開けないのは私たちの考えひとつだと大林監督は言われたのだと思います

2023年6月5日
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鑑賞方法:VOD

2020年7月31日公開
大林宣彦監督は同年4月10日82歳でお亡くなりになりました
つまり監督の死後3ヵ月後の公開です

正に大林宣彦監督の人生の総決算の作品でありました
高橋幸宏が演じた未来人とおぼしき爺ファンタは大林監督が自身が天に召された後の自身の姿のつもりだったのでしょう
ちょいと似ています
声まで似ています

ファンタとはもちろん本作はファンタジーですよということです

大林監督の平和への思い
戦争への嫌悪、なぜ日本は戦争をしたのか?
それを江戸時代から始めて戊辰戦争のこと、明治政府の成り立ちから説き起こしています
そうして日本の歴史の行き着いた果てが広島への原爆投下であるというストーリーです

そして大林監督が自分たちの世代が去ったあと戦争をしない為にどうしたらよいのかを、若い人達に伝えたい
そういう映画です

その色あいは、ある特定政党の主張する政治史観で染め抜かれています
なのでその史観にはちょっとついていけないという人もおられるかと思います

それは人それぞれ
個人の思想信条なのですから、色々な考えが有って当然です

大林宣彦監督は本作で描かれた思想信条を信じて人生を送られて、後進の世代にその思いを伝えたいと思われたと言うことです
大林監督の映画芸術とは別のことです

大林宣彦監督の死後1年10ヶ月、本作の公開の1年7ヶ月後
ウクライナで戦争が起こりました
同様のことがアジアでも起こるかも知れません
核ミサイルが日本に落ちて来る可能性も有りうるのです
その中で本作を観て、あなたが何を考えるのか?
そういうことだと思います

正に、中原中也のあの詩の通りです

人類の背後には
はや暗雲が密集している
多くの人はまだ
そのことに気がつかぬ

気がつかれたら、
諸君ももっと病的になられるであろう

「海辺の映画館」とは?
大林宣彦監督の自身のこと
だから「おのみち映画資料館」の設立の時の行き違いから、数多くの名作を撮った生まれ故郷でありながら20年以上も袂を分かった尾道を最後の作品の舞台とされたのです

沢山の素晴らしい映画を観せて下さいました
ありがとうございました

「キネマの玉手箱」とは?
色々な映画を沢山観て、私達観客自身が映画からどのような思いを受け取り、それでどう私達の考えが変わるのか?
映画を観てどう行動が変わるのか?

それを大林監督は私達に問われているのです
それがタイトル名の意味だと思いました

観客が高みの見物じゃあ、世の中は何も変わりはせんで~!
映画で歴史は変えられんけど、歴史の未来はかえられるんじゃ~!
それをハッピーエンドにするのがワイら観客じゃあ~!

大林宣彦監督が最終的に言われたかったことはこれだったのだと思います

浦島太郎は玉手箱を開けたらならどうなったのでしょうか?
パッと白煙が上がりお爺さんになってしまったのです

玉手箱を開けるのか?開けないのか?
それは、私達観客の考えひとつだということです

時代が変わる
それは一瞬で変わる
竜宮城にいたままの考えでは浦島太郎のようになるのです

そこまで考えて大林監督は玉手箱という言葉を使われたのかも知れません

日本を戦場にしない為に
原爆を落とさせない為に

玉手箱を開ける開けないのは私たちの考えひとつだと大林監督は言われたのだと思います

蛇足
本作にはてとも多くの映画のオマージュが散りばめられています
そのすべてを発見する必要は全くないと思います

ただ本作の物語の展開に置いてけぼりにならない為には次の作品だけは観ていることが必須だと思いました

宮島武蔵 (内田吐夢監督)
戦争と人間(山本薩夫監督)
肉弾(岡本喜八監督)
無法松の一生 1943年版(稲垣浩監督)
黒い雨(今村昌平監督)
2001年宇宙の旅(S.キューブリック監督)

あき240