劇場公開日 2019年11月8日

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「繰り返される歴史に向けて」国家が破産する日 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5繰り返される歴史に向けて

2019年11月28日
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韓国の現在の外貨準備は約4000億ドルに達し、この映画の当時の35億ドルと比べたら雲泥の差だし、IMFからの緊急融資の200億ドルも遥かに凌ぐ水準となった。
そういう意味では、IMFの管理下に入ったことは、正解だったのだろう。
しかし、確かに、金利は倍に跳ね上がり、倒産が相次ぎ、失業者は溢れ、生き残ったのは財閥を中心とした大企業で、現在でも韓国の若者の失業率は高く、IMFの入れたメスの深手は今も残っている。

ただ、もう一つの選択肢として提示されていたモラトリアムは有効だっただろうか。もしかしたら、モラトリアム後の韓国は、多くの国に相手にされず、自由な経済活動を許されるような世界の寛容さを失ってしまっていたのかもしれないのだ。

実は、類似した通貨の売り浴びせは、90年代の初めにもあった。ジョージ・ソロスのポンド売りだ。
歴史は繰り返すというが、人は学んでいるようで学んでいなかった。
そして、このタイ発のアジア金融危機は、アジアを席巻し、ロシア危機やブラジル危機も誘発、当時世界最大と言われたLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)の破綻まで続くことになる。
日本では複数の大手金融機関が破綻、国有化された時期と重なるので、当時の激変を覚えている人も多いと思う。
しかし、またもや人は学ばず、リーマンショックに代表される100年に一度と言われる世界的金融危機に見舞われ、更に、人は学ぶことはなく、ユーロ圏南欧周辺国を中心とした欧州危機も迎える。

今、各国の中央銀行は緩和的な金融政策を実施すると同時に、G20財務相・中銀総裁会合などを通じ、緊密に連携を取り、景気後退の芽を摘み、経済危機を未然に防ごうとしている。
だが、世界は、ボーダレスな巨大ネット企業の登場、少子高齢化、ポピュリズムの台頭、相入れない環境問題の議論、従来の市場資本主義に依らない国家経営を目指す中国、ロシア、アラブ諸国、そして米中を中心とした貿易摩擦など、多くの不安定要因を抱え、船頭のいない船のようだ。

冒頭で、IMFの介入は結果的に正解だったようには書いたが、果たして、巨大化した現在の世界経済にあって、IMFや世界銀行などが救済できる国などあるだろうか。
多くの発展途上国は経済発展で外貨準備は豊富で、個別に危機対応が可能になったことも事実だ。しかし、バブルは、たとえ大きくなくてもあちこちで生まれてハジけていることも事実だ。

国家の危機を煽るのに特定の事象だけを対象にして市民の目を本来の危機から背け、自らの放漫を隠蔽したり、トランスペアレンシーが重要視されるなかで開示を拒んだり、先進国であっても日本にも、この時の韓国のような体質は残ったままだ。
だからこそ、こうした危機を再び招くことのないよう、政治家や官僚は、常に判断材料を国民に十分に提示し、客観的な分析を加えて、判断を仰がなくてはならないのだ。
それが民主主義だからだ。
僕は、当時の韓国を考えると、IMFの管理下に置かれることも、モラトリアムをチョイスして世界の村八分になることも、いずれにしてもいばらの道だったに違いないと思う。
だからこそ、どれを選ぶかは国民が決めるべきだなのだと強く思う

ワンコ