夕陽のあとのレビュー・感想・評価
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予告編も解説も見てはいけない
何の映画かさえ、知らずに観たのは大正解だった。
解説や予告編でネタバレしているのは信じがたい。
「起承転結」という言葉があるが、本作品は「起“転”“承”結」だ。
1/3も過ぎた頃に、茜(あかね)以外のすべての登場人物が、「えっ!?」となるのだが、観客も同時に「えっ!?」となるところに、醍醐味があるのではないだろうか?
「えっ!?」となった「転」の時点から、真のストーリーが動き出す。
133分という長尺で、「親権」という、ただ一つのテーマを、じっくりと追っていく映画だ。
残念だったのは、効果的に使われていた「おもちゃの携帯電話」以外では、台詞で多くを語らせてしまったことだ。
説明的で分かりやすい反面、流れが単調だし、観客をスクリーンに没入させる仕掛けに乏しい。(とはいえ、夕陽はラストシーンだけに取っておくべきだった。)
色彩は独特だった。
漁師町の生臭さを消すためか、“藍色のフィルター”をかけたような映像になっている。
前半は、明暗のコントラストが非常に強い。回想シーンでは、(お約束の)セピア色っぽくなる。そして、普通の感じになってエンディングとなる。
実際は、この映画のように簡単にはいかないだろう。
茜(あかね)のキャラクターも真面目すぎて、このような事件を起こす女性の典型的な姿とは思えない。
ただ、「子供にとって良いこと」が一番大事なのだ、というメッセージは伝わった。
みんながお母さんなんだって
予告ですでに人間関係が知れているので、冒頭、茜の視線の先にある、手放してしまった幸せが切ない。「海はね、夕陽のあとが一番凪いで暖かいんだよ」という。このセリフのおかげで僕は、苦しくも我慢できる。最後には誰もが納得の出来る結末が待っていることを約束してくれているようで。
どうしても、初めは五月家族に肩入れしやすい。茜の哀しさは報いだろうと突き放す。しかし、茜のいきさつが知れるにつれ、皆が皆、誰を傷付けるつもりがなくとも傷付き、傷付けあうこの関係の苦しさに胸が締め付けられていく。「八日目の蝉」的悲哀を味わい、「父になる」的結末に帰結するのか、と思いきや、それとは違った道を選ぶ茜と五月。すべてが豊和の幸せを一番に考えた末の結論。
貫地谷しおりの渾身の演技に圧倒され、「一度失敗した母親は子供を抱き締めてはいけないの?」の台詞が脳裏か離れない。
まさしく「心を削ってつくった」作品。
「心を削ってつくった」と舞台挨拶の貫地谷しほり。その通りだったのだろうな、と観ていて思った。
海辺の町、凪の海。海沿いの街路灯。
孤独な都会。憧れの家族。暴力。子の泣き声。
あの『八日目の蝉』を思い出さずにいられなかった。
救いたかったのは子ども。
救ってほしかったのは母親。
狂気にもなる母性。苦しい、苦しい。
でも、子どもはいつかは離れていく。
狂気は諦めを得て、落ち着いていく。
おのれの魂が救われて、般若の仮面がとれていく。
進むべき道がすーっと開ける。
貫地谷しほり、素晴らしかった。
そして、山田真步。海辺の町の母にすっかりなったラストシーン、素晴らしかった。
実はこの人もかなり凄かった。
素晴らしい作品。
驚きの収穫だった。
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