「松岡茉優ヒロインの恋愛映画と思って見ていたが、実は?」劇場 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
松岡茉優ヒロインの恋愛映画と思って見ていたが、実は?
行定勲 監督による2020年製作(136分/G)の日本映画。配給:吉本興業、劇場公開日:2020年7月17日。
又吉直樹による原作は読んでいない。脚本の蓬莱竜太(1976年生まれ)は初めて知ったが、モダンスイマーズの座付き作家・演出家で、2009年岸田國士戯曲賞受賞もしているらしい。
安アパートでの貧乏な同棲生活が描かれて1970年代の日本映画風だが、セックスシーンの皆無が大きな違いか。原作でも無いらしく、描きたいものの本質はそこじゃないという主張と解釈。そのことに好感も覚えた。
友人の一人が大学で演劇をやっていたせいか、下北沢中心に熱心に小演劇を見ていた時代が自分にもあって、懐かしい思いもした。大きな志しも希望も有るが、昔も今も若い彼らの多くが金銭的に恵まれていないのはどうやら同じらしい。
劇団を立ち上げ戯曲を必死に書いている主人公永田の夢や希望、焦燥感、嫉妬心、創作の苦しみ、自己の才能を信じられない絶望感等は、良く理解できる気がする。ただ、演じていた山崎賢人は子供のままの根暗の変人という印象で、それを十分には体現できてはいなかった気がした。まあ、俳優というより演出の問題かもしれないが。どうして、あれほど松岡菜優演ずる女神の様な紗希にあれ程辛くあたるのか、ただの我儘男に見えてしまっていたのは、とても残念に思えた。
松岡茉優の演技は流石と思わされた。男の理想を集約した様な紗希は、その点ではリアリティに欠ける様な女性像。その天真爛漫な笑顔が見たくて、男は色々頑張ってしまう。そういう存在であり、且つ好きな男に合わせて生き、尽くしすぎた挙句に壊れてしまう。そんな女性像に結構いそうだねというリアリティを与えていた。
原作には無いらしい、最後の壁がパタンと倒れてそこは劇場であったという演出は、昔見た赤テント状況劇場や寺山修二映画と類似するものの、とても新鮮に感じたし、演劇の奥深い無限の可能性を体験させられたせいか、凄く感動を覚えた。舞台上での山崎賢人と沙希役女優の演技を、観客席で涙を流し御免ねと言いながら松岡茉優がずっと見つめる演出にも痺れた。
最後の舞台挨拶では、演劇人の気概を描いたその才能に主人公が打ちのめされた小峰(井口理)も立っていた。観客もとても多く、どうやら永田は劇作家・演出家兼俳優として小峰までも劇団に引き込める程に成功した様だ。
主人公に「演劇で出来る事は現実でもできる」と語らせた製作者たちの創作への無限大の信頼感が、胸を撃った。恋愛映画というよりも実は、困難の中苦労して創作し続ける若人達を応援する物語であったか。蓬莱竜太作・演出の演劇を、無性に見に行きたくなった。
監督行定勲、原作又吉直樹、脚本蓬莱竜太、製作岡本昭彦、共同製作藤原寛 、岩上敦宏 、藤田浩幸 、古賀俊輔 、吉澤貴洋 、飯田雅裕 、吉村和文、エグゼクティブプロデューサー坂本直彦、チーフプロデューサー古賀俊輔、プロデューサー谷垣和歌子 、新野安行、アシスタントプロデューサー清水理恵、音楽プロデューサー田井モトヨシ、キャスティングディレクター杉野剛、ラインプロデューサー城内政芳、撮影槇憲治、照明中村裕樹、録音伊藤裕規、美術相馬直樹、装飾田口貴久、スタイリスト高山エリ、ヘアメイクデザイン倉田明美、編集今井剛、音響効果岡瀬晶彦、音楽曽我部恵一、VFXスーパーバイザー進威志、スクリプター
工藤みずほ、助監督木ノ本豪、制作担当鎌田賢一 、岡本健志。
出演
山崎賢人永田、松岡茉優沙希、寛一郎野原、伊藤沙莉青山、上川周作、大友律、生越千晴、
入江甚儀、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、吹越満、白石和彌、笠井信輔、萩尾瞳、井口理小峰、三浦誠己、浅香航大田所。