「うんざり」劇場 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
うんざり
なるほど…。
とはいえ、その内容に鼻くそ程も惹かれはしない。
ずっと腹が立つ。
腹が立って腹が立って、もう怒鳴りちらしたくなる。
作品の9割で腹が立ってる。
自己中も甚だしい主人公と無条件で彼を愛する健気で可愛らしい彼女。
主人公に向かって何度「死ねっ」て吐き捨てたか分からない。彼に出会った彼女が不憫でならない。
それはたぶん俺が娘を持つ親だからと思って観ていたのだけど…彼女の数年間が食い潰されていくようで見るに耐えない。
それで、ラストがあれか…?
よく出来たラストにも思うし、悲劇は喜劇なんて言葉もあるし、役者なり演出なりが1番説得力を付与できるのは自分自身にまつわる事でもある。
なのだが…アレは言い訳ではないのか?
こんなつまらない、こんなくだらない、こんなどうしょうもない俺の事を、せめて笑い飛ばすか蔑んでもらわないと、それこそ価値がないってな事なのだろうか?
太宰は読んだ事ないけど、太宰に通じるものでもあるんだろうか?この原作には。
ただ…劇場に立つ人間なんて多かれ少なかれあんなもんだ。あそこまでクズな人間は珍しいが、自分の経験を糧にする連中なんかいくらでもいる。
ある種の逞しさだし、潔さでもある。
結局のところ、周りがとやかく言う事でもないのだ。本人達が望んでやってる事なのだから。彼女にしたって、自業自得だ。全員、破滅に向かって進みゃいいんだよ。どうせ愚か者なのだから。その中のほんの一握りが、何かの間違いで成功もするんだろう。
それで、基本的に愚か者だから、大麻やったりのぼせ上がったりもするんだろう。
サラリーマンが出来てりゃ役者なんてやらねえんだよ。
あんなラストになるものだから、作品的には文学的な側面もあって、それを映像に落とし込む監督の手腕も堪能出来るし、役者陣も◎だ。
ただ…アレを劇場で5500円とかでみせられたら怒りしか湧いてこんだろうなぁ。
だって自己陶酔でしかなくないか?
うんざりだ。
ラストは無人の舞台を見つめるヒロインの後ろ姿だ。
そこに浮かび上がるタイトル「劇場」
何とも言い得て妙なのだ。
彼女にとっては過去であり、過ぎた時間だからこそ傍観も出来るのであろう。多くの観客の中でそんな感じ方が出来るのは彼女1人のはずだ。
それと同時に、その作品から何を感じるかは観客の人生に委ねられると言ってもいい。
過去と舞台
どちらも一方向にしか進まず、やり直しはきかない。
幕を下ろした舞台にもう一度はないのだ。
ただ、振り返るしかない。
その1回を糧に次の1回をやらねばならんのだ。
観客は退出するしかないのである。
そんな儚さを感じたラストだった。
◾️追記
とあるレビュアーの方からいいねが付いた。その方のレビューを拝読し、ああそうなのかもと思えた事がある。
俺は本作を実体験だと思ってみていたのだけれど、全てが創作で脚本であるのなら、夢を追いかける情熱や残酷さ、我儘な葛藤であったり挫折であったり、それでもしがみつく執念だったり、そんな事に埋め尽くされた内容だと思えた。
又吉さんの前作「火花」逆から読んだら「花火」だなぁと思ってた。両方とも作品のタイトルとして的を得ていた。今作は「劇場」…条件反射のように「激情」という文字が浮かんだのだけど、俺の中にはズレがあった。
けれども、その方のレビューを読んで新たな視点に気づいた時に、この「激情」って単語がしっくりきた。
やっぱ又吉さんはオシャレだなぁと思えた。