「メタ化の仕掛けが行定勲監督らしい」劇場 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
メタ化の仕掛けが行定勲監督らしい
又吉直樹のデビュー小説にして映画化第1弾の「花火」と同様、妥協せずオリジナリティを追求する表現者の葛藤や焦燥を描く点は共通するが、「劇場」の特徴は恋愛物として書かれたこと。独善的であるがゆえに創作でも対人関係でも行き詰り鬱屈していく男と、そんな男を天使のように愛し支え続ける女の組み合わせは、現実にも物語にもよくあるが、エピソードの具体性と、山崎賢人と松岡茉優の渾身の演技によって、ありきたりでない生々しさを伴う(それゆえ大勢に自身の体験を思い出させる)格別な映画になった。
原作のストーリーをメタ化するラストの仕掛けは、題の“劇場”に新たな意趣を重ねる点も含め、行定監督らしさを感じさせる。ただ、又吉の2作に共通する「夢破れし者への優しさ」という視点を弱めたかとも思う。あと松岡は確かに巧演だが、演技の上手さが透けて見えてしまい、原作の沙希にあった無垢さ、ピュアさは再現しきれなかったか。
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