「「イニシエーション」と「訣別」」ミッドサマー REXさんの映画レビュー(感想・評価)
「イニシエーション」と「訣別」
70年代によく作られたカルト系B級ホラーの要素を持ちつつ、あくまでもポシティブな狂喜を描き通す、という斬新さも感じた。
もし古代儀式を現代に再現したら、もしかしたら同じようなものかもしれない。
生贄という、それ自体は神への捧げ物として祝福されたものであるはずだが、やはり生贄の儀式は見ている側にも心的苦痛を与える。悲鳴や奇声をあげてトランス状態に陥ることは、罪悪感や恐怖を軽減させる効果もあるのだろうと思う。
自然信仰の祭り=祀りを肌感覚で理解できる日本人には、村で行われていることがそれほど奇抜で滑稽には映らないのではないだろうか。
しかし他のレビューでも突っ込みが多かったが、90年に一度という設定の割には、村民が凄惨な儀式に慣れすぎていると思うし、そのサイクルにした必要性が全くわからない。
まあ現代で4.5年単位でこの祭りが行われていたら、流石にSNSなどでバレそうだとは思うが、せめて日本の式年遷宮ように20年周期ぐらいが妥当なのでは。
しかもペレのように、この祭りのために戻ってきた村人も少なくない様子。ということは、生贄を捧げることで村民の人口を一定に保つ必要性も全く感じない。村の中で近親相姦しなくても、いくらでも外部へ赴き、血を新しくすることはできる。
そういう地理的制約があいまいなままなので、カルト的コミューンからの脱出劇というスリリングさは弱い。
主役のダニーが彼氏への依存体質から脱却するというもう一つのストーリーが平行して描かれるが、彼女らの身に起こる倦怠期はカップルに起こりえる普通のことだよな…と思い返すと感情移入も今一つ。
口コミで日本の若い女性たちにヒット、と話題になったが、優柔不断で煮え切らない彼氏を最後の生贄にした主人公への共感と、「女王」という権力の甘い響きに自分の身を重ねたのかもしれない。
しかし私には、「だからなに?」という程度の感想しか持つことができなかった。