「人間のエゴが怖い」ミッドサマー andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
人間のエゴが怖い
祝祭が始まる。
いや確かに祝祭だね!
コミューンの夏至祭、というあからさまな奇祭に行く連中が人類学専攻っていうのは意外と繊細な設定だよね。そして完全に情緒不安定なフローレンス・ピューを通して私たちはこの「奇祭」とひとのエゴをさんざっぱら見せられるのである。
もう、私には全ての登場人物のエゴがどんなグロいシーンよりも痛いわけです。内に居る者の思考も理解し難いが、外からやってきた者のあのエゴの増幅がすごい。内に居る者がトランス状態で一体化しているのと完全に逆ベクトルじゃないですか。友だちとかであっても互いを気にしないのね。その対比にひとりうんうん唸っていた。
色々仕込みが多くて考察サイトが乱立しそうな勢いだが、根本的にはただただディスコミュニケーションの物語だなあと思った。思いやりがない。男性陣にも、情緒不安定のダニーにも余裕がなく、結果として思いやりはない。完全に皆エゴを推し進めた結果、ああいう狂乱と笑うしかないところに行き着く感じがある。こういう物語を思いつくアリ・アスターって逆に気遣いめっちゃしてそう、と思った。
カットの割り方が凄いね。不気味な画ではあるんだけど、幻のように美しい。でも痛みはちゃんとある。あの明るさと音の不穏さはやっぱりスクリーンで観たい映画だと思いました。
私自身はあのラストシーン最高だなと思ってしまったので、ひとりで観に行ってよかったかもしれない。
物語の背景はまあ北欧神話をモチーフにしているんだろうけど、その辺は分かった方が面白いのだろうな。まあ、正直、あの雰囲気に呑まれるとなんか違う方向にいっちゃう気がして、ただただひとはめんどくさいな、というストーリーとして私は観ました。不快度はかなり高いですが、自分にもあるものを綺麗で不気味なテイストで、非日常を装いながら見せつけられるのが「不快」なのかもしれない。
フローレンス・ピューが大変良くて、こりゃオスカーにもノミネートされるわ(「ストーリー・オブ・マイライフ」でだけど)。彼女の情緒不安定感こそがこの映画の肝だよね...。