「負けじ魂」レディ・マエストロ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
負けじ魂
エルガー「愛の挨拶」には、ずっこけてしまった。
市民コンサートにはふさわしい選曲だろうし、美しい曲である。
しかし、音楽の指揮と演奏において、“女性は決して劣っていない”ことをアピールできる“難易度の高い曲”ではない。
女性指揮者が、“負けじ魂”でキャリアを切り開く映画として、素直に見ればいいのかもしれない。
主役の存在感は強烈で、良い意味でハイテンションな演技は心を打つ。
弱みを一切見せず、強気にチャレンジを続ける人物像は、“未開の地の開拓者”の一つの解釈として納得できるものだ。
しかし、残念ながらこの映画は、上記の「愛の挨拶」に象徴されるように、どこか“ずれて”いる。
“音楽”はたっぷり聴けるが、作り手は音楽自体には興味をもっておらず、“音楽の映画”ではない。
いろいろな名曲を、脈絡もなくブツ切りにして流すのは、クラシック音楽の映画としては軽薄だ。
また、時代やお国柄を象徴しているとはいえ、なぜ盛んにジャズを流すのか。
「性別など関係ない」がテーマのはずなのに、皮肉にも“ジェンダー”を強烈に意識させる作りになっている。
“仕事か結婚か”という真面目なテーマを扱うために、ロマンチックな身分違いのロマンスを、長々と描く必要があるのか疑問だ。(実話なら別だが。)
そのせいで、音楽面での苦悩など、本来もっと描かれるべき“音楽家”としての姿が、犠牲になっていないだろうか? どんな仕事でも、男女の区別などよりは、各人の個性の方が重要なはず。
また、“友人ロビン”は、この映画を面白くしているが、もしも作り話にすぎないなら興ざめだ。
本当にすべてが「感動の実話」ならいいのだが、ロマンチックに作り込みすぎて、必ずしもリアルとは言えないのではないか。
「実話を元に」とか「伝記」という殺し文句で、鑑賞者を思考停止に追い込み、虚構まで真実だと信じ込ませるとすれば、いかがなものだろうか。
ブリコの生涯に“インスパイアされたフィクション”と銘打っていれば、もっと素直に楽しめたと思う。