ウエスト・サイド・ストーリーのレビュー・感想・評価
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隣人を愛せよ
ヴォネガットのチャンピオンたちの朝食に「なんでおれが『二都物語』なんか読みてえかよ?なんで?」という台詞がある。
それを言うのは教育のない黒人だった。
ニュアンスが伝わるか解らないが文学からかけ離れた生活環境の人間にとって文学は意味がない。
もちろん建前において文学は人心の糧(かて)となるものだ。が、じっさいどうだろう。DQNはシェイクスピアを読むだろうか。ちんぴらは往生要集を読むだろうか。労働者はディケンズを読むだろうか。
かれの生活環境と文学は天地ほどのへだたりがある。鑑賞するなら教養がひつようになる。けっきょくそんなものを読んでいるヒマがあるなら働けということになる。
人々から虐げられ、ひどい扱いをうけてきた黒人が「なんでおれが『二都物語』なんか読みてえかよ?なんで?」と言うのは、そんなかれにとって至極まっとうな了見ではなかろうか。
わたしは極東の田舎の百姓である。
だから、この映画を見るにあたって「なんでおれが『ウエスト・サイド・ストーリー』なんか見てえかよ?なんで?」と思いながら見た。
それが言いたかった。
むろんそれを言うならほとんどの映画が、じぶんの生活とはかけはなれた世界のものにちがいない。
だがミュージカル映画となると、なんとなく中産階級&知識階級の娯楽に感じられ、漠然とした気恥ずかしさを覚える。
その逆もある。
逆とは知性を否定するようなばかばかしさ。ボリウッドを見ていて「な、なんでおどる?」と感じたことはないだろうか・・・。
──こじんてきなミュージカル感はさておき、スピルバーグの新作がウエスト・サイド・ストーリーだと知ったときも「なんで?」と思った。
スピルバーグの新作がウエスト・サイド・ストーリーだと知ったとき「くるとおもった」と感じた人がいるだろうか?
どこかの評論家は「まさにいまだからこそ」ウエスト・サイド・ストーリーなのだとのたまっていたが、じぶんは2021になぜウエスト・サイド・ストーリーなのか、まったく解らなかった。(ついでに言うとその評論には、なぜいまなのかの説明が一切なかった。)
そんなわけで、懐疑心だらけで見はじめたウエスト・サイド・ストーリーだったが、きれいな下町で群舞がはじまると雰囲気にのまれる。なにしろスピルバーグである。話のすききらいはともかく、映画として難点が見あたらない。わかりやすい。
物語にはヘイトをやめて隣人を愛しなさい──という教訓がある。そして隣人を愛するために多様性を受けいれる寛容を持とう──とスピルバーグは言っている。
全編を通じて、つねに出てくるキャラクターがいる。Iris Menasという俳優が演じているが男装した「かれ」には役名も、物語上の役割もない。
あだ名は「Anybodys」だがそう呼ぶのはトニーしかいない。ジェッツでもシャークスでもなく、輪の中に入れず、すこし離れたところから、ワイワイやっている者たちをうらやましそうに眺めている。
仲間入りしようと果敢にアプローチするが、あざけられ、ののしられ、はぶられる。
だけどいつもトニーを助けるのはかれだ。
登場人物全員から疎外され続ける、かれAnybodysこそが、じつはウエスト・サイド・ストーリーのキーパーソンであり、エンジンであり、スピルバーグの分身であり、あるいはわたし/あなたなのだ。
映画は古典的なラブストーリーを踏襲しつつ、どこにも所属がなくて、非バイナリ(男女どっちでもない)であるAnybodysの哀しみを背負っている。
けっきょく民族や肌色やジェンダーで憎しみあうかぎり、多様性を認めず仲間はずれをつづけるかぎり、こんな悲劇的結末しかありませんよ──と映画は言っている。
せかいじゅうでヘイトが吹き荒れるいま、その主張はとてもタイムリーだ。まさにいまだからこそウエスト・サイド・ストーリーなのだ。とわたしは思った。
名作を超える名作
「現代に作られるべき映画」として入念にアップデートされた一作。
スピルバーグ監督としては初ミュージカル作品と言うことで、一定の水準以上を超えてくる映画だとは予想できるものの、一体どんな仕上がりになるのか未知数な部分もありました。いざ鑑賞してみると、これはまさにスピルバーク監督作品だし、誰もがその名は知っている『ウエスト・サイド物語』の要所要所を現代的にアップデートした、「今作られるべき映画」となっていました。
第94回アカデミー賞では、アニータ役を演じたアリアナ・デボースが見事助演女優賞を獲得しました。もちろん主人公二人(トニー役のアンセル・エルゴートとマリア役のレイチェル・ゼグラー)も素晴らしかったんだけど、本作が現代の映画として成立する上で、アニータの役割の変化は明らかに非常に重要だったんですが、デボースの演技は非常に説得力のあるものでした。この受賞は納得の一言です。
前作『ウエスト・サイド物語』(1961)よりも遥かに荒廃したニューヨーク・マンハッタンの風景は、まるで爆撃を受けたかのように寒々としていて、お互い米国主流社会から排除されているマイノリティの若者同士が繰り広げる争いの虚しさが一層強調されています。それでいながらダンスシーンは、まるで男女が挌闘しているかのような迫力で、この映像と見事な歌声を体験できるというだけでも、ああ、映画館で観て良かったー、と実感させられます。この絵作りはさすがスピルバーグです。
劇場で販売されているパンフレット、というかメイキング・ブックは、映画本編よりも高いのですが、これは購入する価値が十二分にある一冊です。本作を楽しんだ方なら読んでも決して後悔しないと思います。
「1961年ウエスト・サイド物語」
愛だろ、愛!
結論から先に。
最高でした!
オリジナルの1961年版は、もちろんテレビで何度も放映されて来たと思うが、
ちゃんと見たのはCS放送で1回のみ。確かトニーは死んじゃうんだっけ?
ストーリー的な認識はその程度の薄いものだった。
レナード・バーンスタインの音楽(サントラ)は今まで幾度となく聞いて来て
いて、「マリア」「トゥナイト」「アメリカ」などの珠玉の名曲は、もちろん
知っていた。上映が開始されると、「20世紀FOX」のファンファーレ!
本当に久しぶりに劇場で見た、聞いた!そのままスターウォーズ始まるかと思
った。(笑)
俳優陣の演技とダンスは本当に素晴らしかった!
あんなふうに楽しく踊れたらいいナ!
昔、職場の先輩、上司たちが、地元のお祭りかクリスマスにあんなふうにカッ
コよくダンスパーティしてたのを思い出す。
先ず、ミュージカルの肝である音楽、バーンスタインの音楽無しではこの映画
は成立し得ない。客席で、思わずリズムをとっている自分、隣のお客さんも同
様だ。
この映画のメッセージは何だろう?
若さ。
その素晴らしさ。
一瞬で恋に落ち、心の中に激しく燃え盛る炎は決して消すことは出来ない。
人を好きになる事の素晴らしさを躍動感のあるダンスシーンとバーンスタイン
の音楽を見事に融合させて観客を魅了する。
自分にも、あんな若い頃があったな。。
振り返って今のじぶんはどうだ?
日常と常識の海にどっぷりと首まで浸かって思考停止状態とまでは言わない
けれど、それに近い惰性の日々送っていたな。
そう気づかせてくれた作品だった。
ありがとうスピルバーグ!あなたは私にとっていつまでも最高の映画監督です!
こんな話だったのか!
もう配信⁉︎
思ってたのと違う
スティーブン・スピルバーグ監督の拘りが随所に見える会心の名作ミュージカル・リメイク!!
1961年に映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」をスティーブン・スピルバーグ監督がリメイクというだけで、やはり期待感は高まるばかり!!
その期待を裏切る事無く、セットではない実際のマンハッタンのウエスト・サイドでの撮影、そこに躍動する一糸乱れぬダンスシーンなど見せ場いっぱいの演出はやっぱりスピルバーグ監督の面目躍如!!
ポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」の対立構図はまさに現代アメリカの縮図であり、よりリアリティを持った感覚で観る者に説得感を与えている。
個人的には主演二人にイマイチ魅力が感じられず、ラブストーリーの部分はやや食傷気味であったが、それでも見ごたえ充分の2時間半であった(笑)!!
ダンス、歌、映像は見事!後味もう少し
まずはダンスが見事!カメラワークに衣装やセットの色味も計算されつくした映像のセンスの良さ。
歌も素晴らしい。
気になったのは、再構築されたストーリーの中で、説得力が薄い点。
現代的な分断と対立がメインに描かれており、そこは見事。しかし、肝心のマリアとトニーが恋に落ちるところや、彼らがなぜそこまで愛し合ったのか、兄を殺されてまでも逃避行を選んだのか、まーったく、説得力がない。もっとエピソードや発言を交えて、2人が恋に落ちる過程や、この人でなくてはならない理由を描いて欲しかった。
でないと、2人の関係性が薄っぺらいと、すなわち、物語の展開全てが薄っぺらくなる。
トニーが決闘を止める動機も薄いし、チノがトニーを撃つ理由も薄い。トニーの死を乗り越えて明日へ向かうというようにも見えない。
元のロミオとジュリエットや、過去の映画の方が、そこは説得力あったし、愛し合う若者を犠牲にしたことで、各対立グループが目を覚まして、手を取り合うという前向きさもあった。
この映画は、ラストの救いがないところが、最も残念…。
トニーの復讐をせず、誰も撃つことなく「somewhere 」を求めて立ち上がるという展開のが良かったなぁ。
ぬるっと終わり、対立はそのまま、、なの?
鬱っぽいラストに、読後感が悪かったのが残念…
冷静になってはいけない
ミュージカル映画全般にあてはまると思いますが、冷静な目で見てツッコミを入れ始めたら楽しめてない証拠だと思うのです。
「え?なんで今歌うん?はよ逃げろや!」
みたいな心の声が聞こえる私は、きっとミュージカル映画向きではないタイプの人間なのです。でも、ミュージカルソングとか好きなんですよね。
そんな矛盾を自覚しながら鑑賞しました。
案の定冷静な自分との戦いでした。ですが、2時間を超える大作の割にはあっという間に見終わりました。これは作品自体が飽きさせない高いレベルで制作されている証だと思います。映画館のスクリーンで見たのでこのように感じましたが、家庭のテレビで見たらあまり入り込めないかもしれません。
ストーリーについてあれこれ語るのは粋ではない気がする映画です。いつの時代も、恋に夢中になってのぼせ上って盲目になっている時が一番幸せですね。
観て損した
オリジナルの大ファンなので楽しみ半分、不安半分で観ました。
映画館はものすごく久しぶりでしたが、結果非常にガッカリしました。
アニタ以外の登場人物に全く魅力がなく、それゆえオリジナルのストーリーの持つ強引な展開ばかりが目に付き、観ているのが苦痛でした。
あのストーリー展開が違和感なく受け入れられたのはキャスト達の魅力があったからなんだと再認識しました。
厳しいオーディションを通過したはずなのではないでしょうか?
特にトニーには全く輝きが無く、故に2人がパーティー会場で一目惚れしあうシーンも???しかなく、そこから始まる展開には全く感情移入できませんでした。
一緒に鑑賞した18才の娘も同じ感想。魅力ないどころか、キモかったそうです。
オリジナルではあんなにときめかせてくれたベルナルドも同じく。
せっかく私から誘って行きましたが、忙しい春休みの貴重な時間を無駄にしました。
製作陣に怒りが湧いてくるレベルです。
Somewhere
銀幕
1961年のオリジナル版は、午前10時の映画祭で観て心をぎゅうっと掴まれ、ついでにびっくりする程の涙を搾り取られた忘れられない作品。
それをスピルバーグがリメイクするという第一報を聞き、主演がアンセル・エルゴートに決まったと知り(ベイビー・ドライバーでのキッチンダンス!!)1年間の公開延期を経て、もうずーっとずーっと焦がれるように待っていました。
ずいぶん長い間待っていたと思っていたけれど、完成した作品を観てわかった。
スピルバーグ監督の長い長い片思いは、家族でオリジナルを観た少年時代から現在まで60年。それはそれは、純粋で切実。
壊れないようにそっと埃をはらい、慈しみながら磨いていく。
これがあの銀幕か!!多くの人が憧れ、何人かは魅入られたまま戻って来なかったという。
夜のバスケットコートでの「マリア」、スピルバーグ監督ならではの優しい雰囲気が大好き。自分の映画・お気に入りシーンランキングに絶対入ります。
黄金の光をまとい、長く濃い影を引き連れて去っていくハリウッドの後ろ姿を、タランティーノ監督はおとぎ話に。スピルバーグ監督はドキュメンタリーとして映してくれました(スピルバーグがリメイクした事自体がドキュメンタリーだと思うので!)
再確認したのは何と言っても曲がいい、歌詞がいい。NYフィルの方の弓に、字幕翻訳の石田さんのペンに初心が宿る清々しい作品。多くの人の思いを束ね、万感とはよく言ったものです。大満足でした!
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