「琵琶を弾かない琵琶法師はいらない」犬王 たかさんの映画レビュー(感想・評価)
琵琶を弾かない琵琶法師はいらない
時々この映画を思い出してしまうので、レビューを書いてこの映画への執着を終わらせたいと思います。
自分は能の音楽が好きなので、この映画でどんな風に現代化されるのだろうかと楽しみにしていましたが、大変がっかりしてしまいました。
日本の伝統音楽といえば琵琶とか三味線とか楽器(音色)でイメージされがちですが、それだけでなくリズム感にも特徴があります。
特に能は、緩急が一句一句についているし、その緩急を導き出す間の取り方、密度の作り方が他の芸能にも増して際立った特徴をなしています。
大鼓が大きく一拍をとって、小鼓が従いながらも駆けていく。笛がメロディーを吹いているように見せかけて、リズムを主張しながら大鼓と小鼓のやりとりに絡んでくる。そしてここぞという時に全てをさらっていく太鼓のリズム。
歌では息を直接操って自在に緩急をつけ、しかも舞台上の空気の密度まで変えてしまう力を持っています。
このやりとりが時に喧嘩になってよくわからなくなったり、絶妙に調和して人を興奮させていくあり方が能の音楽の醍醐味です。
だから『犬王』では、日本の伝統的な音色でなくていいから、欧米発の楽器を使ってでもこのリズム感を現代人に聴かせて欲しかったのですが、最後まで一昔前のロックでした。
自分もロックは好きなんですけどね。
能とジャズは似ているとはよく言われます。ジャズ要素を取り入れてもよかったんじゃないでしょうか。
他にも能のセリフ、息遣いといった要素などを表現するならラップでやってみてもよかったかもしれません。
製作陣は能の舞台をちゃんと見たんでしょうか。初め何回か見ても眠いだけかもしれませんが、少なくとも犬王に影響された世阿弥がどんな舞台をどんな技法で作ろうとしたか理解するまで見るべきだと思います。芸術家なんだからそれくらいやってほしいです。
琵琶の音は聞こえないし、リズムも西洋音楽に乗っ取られているし何のための琵琶法師だったのかいまだにわかりません。
琵琶を弾かない琵琶法師が一人処刑されたところで、何の感慨もありません。
以上、才能もやる気もない自分がたらたらと書いてしまい申し訳ありません。
アブちゃんはすごくよかったと思います。