「100分切ってるとは思えないほど退屈」犬王 KID606さんの映画レビュー(感想・評価)
100分切ってるとは思えないほど退屈
女王蜂がとても好きで、湯浅政明監督も嫌いではないので期待して見に行った。
原作には触れていない。
形は違えど、等しく権力欲に虐げられた2人が出会うところまではとても楽しめた。
仮面越しに、もしくは聴覚で風景を感じ取る描写も、斬新とは思わないが効果的だった。
その後が最低。
突然始まるロックフェス風の演出、はまだいいとして…
琵琶と太鼓しか映像にないのに鳴り響くギターとドラム…ギャグですか?
映像には正解がないので、どんなに荒唐無稽になろうとも、作中の人物の心象風景として受け取れる。
しかし音と映像が組み合わさり、その風景に人々が熱狂する描写まで入れたら、それは作中の現実の風景となる。
そこでギターがなり、ドラムが入り、なのに琵琶や太鼓しか並んでいないのは猛烈な違和感でしかない。
アニメーションの持ち味は、実際のライブや舞台の映像を非現実の力によって超えていくところにあるはず。
現実にあり得そうなライブ映像や大掛かりな舞台装置の描写をして、音楽はちぐはぐというのでは明らかに現実以下。
違和感を覚えさせ没入感を剥奪するような、何がしたいのかと疑問しか持てない、的外れもいいところな演出のシーンが延々と続き、苛立ちさえ覚えた。
そもそも曲も古臭く、革新性がないのでもう何を見せられているのか…
いいのはアヴちゃんの声だけ。
そして脚本も、虐げられたものの生き様、芸事を極めることの苦悩などを浅く行ったり来たりするだけで、人物の関係性や内面などに踏み込んでいかないのでペラッペラ。
主人公たちがのし上がって行く過程や苦悩も何も描かれないため、曲を捨てろと言われて抵抗することにさえ共感出来ない。
強い絆で結ばれる過程の描写がないので、友魚は途中犬王を利用して金儲けをしようとしているようにしか見えず、友を守るために曲を捨てた犬王、抵抗の末斬首される友魚と悲劇的な最後にも腑に落ちるところがない。
人間臭さを感じられたのは犬王の親父くらい。
後半は終始違和感と退屈以外何も感じられず、時間を無駄にしたことと、一流が揃ってもこんなものができるという悲しみが心に沁みた映画でした。