「考え抜かれたエンターテイメント作品!」犬王 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
考え抜かれたエンターテイメント作品!
スタッフが湯浅監督、野木亜紀子さん脚本、大友良英さん音楽、キャラデザは松本大洋さん。
「これは良い作品にならないはずない!」と楽しみに鑑賞。
本作と繋がりを持たせてあるアニメ「平家物語」もとても良かったのでその点でも期待大だった。
観た後の感想。
これはとても良いエンタメ作品だと感じた…!!すごいぞ。
まず冒頭からスピード感あるアニメーションと演出が格好良くて作品に引き込まれずにはいられない。昔話の絵本のような絵柄も味があるし、湯浅監督の作品は「アニメーション」という形じゃないと表現できないよなあ、といつも画に惚れ惚れしてしまう。
壇ノ浦で生きる友魚は平家の滅亡で水底に沈んだ三種の神器の捜索に巻き込まれたことで父親を亡くし、自身も失明してしまったことで復讐の旅に出る。
そこで彼は琵琶法師と出会い、自身も琵琶法師の道へ。
師となった琵琶法師と京に辿り着いた友魚は、申楽の家に異形として生まれた犬王と出会い、一緒に平家の亡霊たちから聞いた物語を新しい申楽の形にして人気を博していく……という物語。
新しい形の友魚の琵琶(?)の弾き語りが始まった時、「あ、これは申楽を現代の音楽ライブに見立ててるんだ」と理解。
観客を煽るし、コール&レスポンスさせるし、手拍子やこぶしを振り上げるよう促すし、観客とステージの間の仕切りスタッフがいるし、もう完全に現代のロックフェス状態。笑
そして犬王の謡と舞いももう完全にステージのショー。
またそのステージを丸々全部見せるので、もう映画を観てるというよりも、ライブビューイングしてる感覚。
あの感覚はちょっと面白かったな。
そして、犬王の声は歌唱パートも含めて女王蜂のアヴちゃんがあてているんだけど、これが本当にすごい。
観終わってみると犬王役はアヴちゃんしかいなかったと思う。
命を削って乗せているかのような切なさと迫力がある。
あれは劇場で聴くのが良い…。
そう、本作はあのライブをやりたかったのだと思う。
あの時代設定で、アニメーションで、だからこそのあのライブを。
そういう意味で本作は映画であり、ライブ映像でもあるのだと思う。
能楽(当時は申楽)を私たちがとっつきやすいロックのライブにしてしまった。
作り手の想いを詰め込んだ作品でありながら、最大限エンターテイメントにしようという気合いを感じる。
今回の脚本の野木亜紀子さん、社会問題とかシリアスな主題を誰が観ても楽しいエンタメとして描くのがめちゃくちゃ上手い方と認識しているんだけど、そういう意図もあっての起用だったのかなあと色々考えながら観ていた。
あと野木さんといえば、社会的な弱者や、世間から認知されなくても懸命に生きる、名もなき人々へ視線を向け続ける方という認識もあるのだけど、そこも今回友魚や犬王に受け継がれていると感じた。
平家の沢山の魂から物語を拾い上げようする2人の眼差しがとても良い。
そう、そして切ない友魚と犬王の友情も良かった。
犬王については資料が残されていないらしいけど、本作はそれについての歴史の一解釈としても面白い。
あと犬王の境遇は完全に「どろろ」オマージュだったよね。ライブシーンはQueenオマージュっぽいのもあったし、色々オマージュ探しも面白そう。
このともすれば地味になりそうな鎌倉時代の文化の話をこんなエンターテイメントにした作品として拍手喝采。
楽しい劇場体験だった。