「まやかしの現世では仮面をかぶる」犬王 ブロッコリーさんの映画レビュー(感想・評価)
まやかしの現世では仮面をかぶる
四畳半神話大系や夜は短しの湯浅監督作品と聞き、見に行った。
森見節全開で台詞回しが特徴的な四畳半と比べて、犬王は光の表現に凝っていた。
その理由には能という劇中劇のシーンが多いこと、そして友魚の盲目にあるように思う。真っ暗な室町の夜に映し出される犬王の舞台。そして友魚の感じる音だけの世界もまた、暗闇の中に僅かな手がかりが浮かび上がる。
ラストのあたりで2つの疑問が残った。
1つ目は、師である谷一や琵琶法師の仲間が必死に守ろうとしても自分の名前を変えようとせず、自分の曲や友有という名前を守ろうとした友魚が、なぜ最後は友魚という名前で死のうと思ったのか。
死後に名前が違うと探せないから最初に教えた友魚という名ということなのだろうか?それとも自分の原点は犬王と最初にあったときのように純粋に音楽を楽しみたいからという意味なのだろうか?
2つ目は、犬王がプライドと自分の曲を捨て帝に取り入ったこと。そして死後に友魚を探し当てたことだ
命は助かっても自分が築きあげたものを捨て、自分が感じるものとは異なる舞を踊るのは苦痛ではなかったのか?
この世は仮面、まやかしのようなものといった意味合いのセリフが劇中にあったが、まやかしの現世は仮面をかぶり帝のもとで能楽師として生き、そこから開放されたあの世では本心を出せる友魚と舞い歌うという意味だろうか?
今後ネット配信されたら見返して考察してみたいと思う。
全体としては少し人を選ぶ作品なのかなと言う印象。
説明的なセリフは少なめで、いきなり場面が変わり数年の時が経っていることも度々ある。また、舞台のシーンが多いが歌詞がやや聞き取りづらく置いてきぼりにされることもある。
舞台の音楽やダンスもエレキギターが聞こえてきたり、ブレイクダンスから新体操やバレエなど、いやありえへんやろ!とツッコみたくなる人もいるだろう。
ただ印象に残る音楽や映像も多く、刺さる人もいるのではないか。私は腕塚の曲と鯨の演出、そして無音で花吹雪の中を舞う犬王の映像がとても良かったと思う。