「時空を超えたロック・オペラ!観る者の感性をビシビシ刺激する」犬王 豆腐小僧さんの映画レビュー(感想・評価)
時空を超えたロック・オペラ!観る者の感性をビシビシ刺激する
平家滅亡から幾趨勢…南北朝時代から室町時代を背景に三種の神器のひとつに触れ、盲となり琵琶法師となった友魚と異形・異能の猿楽師犬王の物語。
この時空を超えたケレン味たっぷりのロック・オペラを撮り上げた湯浅監督は、松本大洋の代表作『ピンポン THE ANIMATION』から始まり、オリジナル『四畳半神話大系』でシュールや独特な抜け感で独自の世界観を構築、アニメをある意味アートに昇華させた人物である。
本作もその才をいかんごとなく発揮し、まさに集大成的な作品に仕上がっている。そしてこれが観る者の感性をビンビンに刺激するのだ。平安時代の琵琶法師にロックの要素をぶっ込み、現代演出の要素まで取り入れ最高にぶっ飛んだグルーブで魅せる魅せる。プロジェクションマッピングまで登場させてしまうケレンもカッコイイ!と思わせてしまうのだからもう観客の負けだ(笑)
自分の野望のため悪しきものに腹子を売り渡した父親である猿楽の棟梁、異形として生まれ舞うことで平家亡霊の供養を果たし、失った体を取り戻すというこのプロットは…手塚先生の名作「どろろ」インスパイア・リスペクトではないだろうか。
しかもその犬王を演じるが、女王蜂のアブちゃんである。奇しくも2019年版「どろろ」のOPを歌ったのも彼なのだ。こりゃとても偶然とは思えない。そして本作の犬王はその歌唱力と紡ぎ出す世界観からアブちゃんじゃないとダメだな…とつくづく思った。
また、この平安時代とロックのクロスオーバーは、近代におけるロック革命と保守や政治的配慮によるロック迫害の歴史の物語ともオーバーラップしてるとも思ったり。作品では、頑なに自身の琵琶と歌を貫き生命を落とす友魚。法師一門の命を守るため上皇の意を受け、自らの表現を捨てた犬王もまた精彩を欠き歴史の狭間に埋もれてしまう。そして時代を超えて互いを見つけ邂逅する所で幕が降りる。切なくも嬉しき終わりだ。破滅と再生…そう、ロックは死なない…である。
いや~これ、ロック・オペラとして舞台でも観てみたいなと思った。誰か企画してくれ。あと顔を取り戻した犬王が、面をとったその顔は…あのロック・オペラの名作「ロッキー・ホラー・ショウ」のフランクン・フルター博士(ティム・カリー)じゃないか?!と思ったのは僕だけだろうか?もしそこにリスペクトがあったのなら恐れ入る。