劇場公開日 2020年1月11日

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「作画に7年お疲れ様です」音楽 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0作画に7年お疲れ様です

2020年2月17日
PCから投稿

『音楽』というストレートなタイトルは、逆に気持ちがいいが、このタイトル実は奥が深い。音楽とは何だろうかと考えさせられる映画なのである。

ユルい絵だから、適当に描いているのではないかと思うが、実は「ロストスコープ」という技法を使用している。「ロストスコープ」とは、実際に人間を撮影して、写真の上からトレースして絵にするという昔からある技法だ。

「ロストスコープ」ではないが、写真を撮ってから絵を描くという作画方法は、巨匠アレックス・ロスやアメコミ作家も行っている。

デザインはユルいが、手の描き方や動きが細かい部分は「ロストスコープ」で作成されているからであるし、背景も同じく写真を撮って線画におこしていて、スケッチをしたような感じをあえて残している。そのため、背景は何気にしっかりしていたりするのだ。

特にクライマックスのシーンは、演出なども含め、細かい描写が多くなっていくため、作画の手間が圧倒的にかかっている。

例えばフォークソングバンド「森田」の髪が風になびくシーンでは、400枚を作画していて、1枚に1時間かかっており、ご苦労様といか言いようがない。

どうしても映画の尺を稼ごうとして、やたら長い間や、歩いているシーンが多いのは気になるが、作画に7年もかけているのだから、それぐらいは暖かい目で観るべきなのかもしれない。

何に対してもめんどくさいと思っている不良高校生がある日、ギターを手に入れたことで初めてバンドをすることに。(明らかに窃盗だが)

音楽の知識も楽器を使った経験のない研二達は、めちゃくちゃな演奏をするのだが、この時の衝撃は正に「音楽」を初めて感じる瞬間。その人生の中で貴重な瞬間を見事に描いているのだ。

私たちは、どうしても「音楽」というと、ある程度出来上がったものを想像してしまうが、そうではない。

ただ純粋に音を雑音のようにかき鳴らしたものも「音楽」であるのだ。それこそが音を楽しむと書く「音楽」の本質なのかもしれない。

だからこそ周りのキャラクターや映画を観ている側も研二たちの演奏から、何かを忘れていたものを感じずにはいられないのだ。

劇中には森田率いる「古美術」というフォークソングのバンドが登場する。「古美術」の演奏に心を惹かれた研二達は、森田達にも自分たちの演奏を聴かせると、森田は感動するというシーンがある。

森田というキャラクターは、家にジャンル問わず、大量のCDが資料としてある正に音楽オタクであるが、研二の演奏を聴いたことで、自分の中での「音楽像」というものが崩れ去り、のちに音楽性の探求への発展していくという構造が立派な音楽映画なのだ。

シュールでユルいアニメ映画だから、その雰囲気だけで笑わせようとする映画であって、音楽はあくまでおまけだと思えば、実は音楽映画としての作り込みは凄いというギャップがこの映画の最大の魅力とも言えるだろう。

プロモーションにもあまりお金がかけれないことから、単館上映となっているが、近年のエンターテイメント性を強調した日本映画や漫画原作の恋愛映画などと比べても、物語のクオリティは高い作品だと言える。

バフィー吉川(Buffys Movie)