「役者目当てで観に行く人にしか楽しめないだろう」カイジ ファイナルゲーム といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
役者目当てで観に行く人にしか楽しめないだろう
原作漫画は未読ですが、アニメは全話視聴済み。映画は1作目2作目ともに鑑賞済みで、中国版の実写映画も鑑賞済みです。
結論から言うと、本当に酷かった。まだ2020年も始まったばかりですが、おそらく今年のワースト3にはランクインしてくるであろう映画です。それくらい酷かった。
娯楽映画なのに不快感を感じるレベルの政治批判を盛り込んだ脚本であったり、カイジの魅力である駆け引きや心理戦の要素を徹底的に排除してしまったゲームであったり、ご都合的な逆転劇であったり……。酷いところをあげればきりがありません。
最初に行われたゲームの「バベルの塔」を見た瞬間から「この映画は駄作だ」と確信していましたよ。カイジの一番の魅力は敵の仕掛けたイカサマによって絶望的状況に立たされながらも、イカサマの穴を衝く策を巡らして逆転勝利するというカタルシスにあるのです。それなのに「バベルの塔」でのカイジはむしろ自分がイカサマを行う側で、予めカードの場所を知ってて予め他の参加者を出し抜けるように準備をしていて多少トラブルはありつつカイジがカードを手に入れるという何一つ面白みの無い展開。正直バベルの塔はやる必要性を一切感じません。「帝愛の裏カジノで大勝利したギャンブラー」ということで東堂から直接カイジにスカウトが来ていても何ら違和感が無いのに、わざわざバベルの塔というつまらないギャンブルに尺を割く必要性は感じられません。
全てのゲームに「なんで?」とツッコミを入れたくなるような酷い箇所があって、ゲームに勝利したところでイマイチ盛り上がらないしスッキリしない。カイジの魅力であるカタルシスが皆無。
「バベルの塔」は鉄骨わたりのパロディがやりたいだけのゲーム。鉄骨を渡る必要性が全く無いしもっと良い方法が絶対にあったはず。まるでドローンが飛んできたせいで鉄骨の上にいたカイジの存在が他の参加者にバレたように描写されていますが、そもそも全員が8メートル上空にあるカードを見上げているんですからドローン関係なくバレていないとおかしい。
「ドリームジャンプ」はセキュリティのガバガバさが違和感あるし、見え見えの伏線である「キュー」が回収されるためだけの戦略もへったくれもないゲーム。そもそも、「最後の審判」で負けそうになってからようやく別のギャンブルを始めて資金を増やそうというのが遅すぎる。最初からやれ。
「最後の審判」は単純な金の積み合いによる戦いなので、そこに心理戦や駆け引きの要素は一切無い。カイジ達よりもむしろ不動産王である吉田鋼太郎サイドの方が、事前に内通者を用意していたり敵の資金力を削ぐような策略を巡らせてたりしており好感が持てる。カイジ達は吉田鋼太郎に「汚いことしやがって」と言う様なシーンもあるが、全くルール違反ではないので「全然汚くないでしょ」と、カイジ達に全く共感できない。観客が投げ銭するシーンも、「日本の経済を守るために戦うカイジ達に共感した観客が負けそうになっているカイジを応援するために金貨を投入する」という流れならばカタルシスもあったのでしょうが、観客はカイジが勝てそうだからカイジ側に金貨を投げ入れた流れになっており、「結局は金かよ」という印象を与えてしまった。最後の決着の付き方も、偶然時計の針に引っかかっていた2回連続でコロコロと転がってきてカイジ側の天秤に乗っかって逆転勝利。これはあまりにも酷すぎる。カイジがこれを狙ってやっているわけではなく本当に偶然そうなっただけ。個人的にこの勝利は禁忌と言って良い、史上最悪の逆転劇です。脚本を書く上で絶対にやってはいけない「デウス・エクス・マキナ」的な手法ですよ。カイジの魅力であるカタルシスを演出するためには、吉田鋼太郎をもっと悪役に描かなければいけなかったし、カイジは自分の戦略で勝たなければいけなかった。上映時間のうちで一番時間を掛けて描かれたゲームがこんなにお粗末なんですよ。
最後に「黄金ジャンケン」
福士蒼汰演じる高倉とカイジの直接対決。なんで1時間くらい掛けて描かれた最後の審判の後にこんな10分あるか無いかの蛇足みたいなゲームを見せられるのかがまず理解できません。ゲームの内容も、言ってしまえば「三回勝負のうち一回は必ずグーを出さなきゃいけない」という単純なゲーム。カイジは高倉の「金の卵を握ってないならグーを出さない」という思い込みがあると気付き、その穴を衝いて勝利しました。しかしながら、この戦いでカイジは「手のひらサイズの金」なんていうもののために戦っていたのではなく、「日本」という国を背負って戦っていました。別にカイジは金なんて欲しくないんですよ。だから「金を握ってないからグーは出さない」は成立しないし、そんな勝ち方されても納得できません。
私が見たかったカイジとはあまりにかけ離れていて、「カイジ」観に行ったのに「闇金ウシジマくん」が始まったかと思うくらいです。これ本当に原作者の福本先生が脚本したんですか?「キンキンに冷えてやがる」「悪魔的だ」と言わせておけば嬉しいでしょ?過去作のキャラクターが登場すれば喜ぶでしょ?そういう観客を馬鹿にした考えが見え透いたお粗末な脚本で、観ていて不快感すら覚えました。
あと、「説明不足」感が否めません。しっかり観ていたつもりですが、最後の審判のルールの説明不備であったり最後の「黄金ジャンケン」の際の政治家たちのいる場所とか何やってるのかとかの説明がほとんど無かったり。結構「これはどういうこと?」という描写が見受けられます。多分ゲームを無駄に4つも詰め込んだせいで尺がなかったんでしょうが、それにしたって説明不足です。
脚本やストーリーに関しては上記のような本当に酷い内容でしたが、役者陣の演技に関してはお見事。カイジの宿敵として登場する派遣会社社長役の吉田鋼太郎さん、政府のエリート役員として登場する福士蒼汰、そして何より主人公カイジ役の藤原竜也。ベテランから若手まで、実力派俳優が揃い踏みで繰り広げられる演技合戦は本当に素晴らしかった。役者陣の演技によって、脚本の稚拙さをカバーできている部分もあったと思います。
出演される俳優を目当てに鑑賞する方にはたまらない内容になっていました。しかし、カイジの面白さの醍醐味でもある駆け引きや心理戦やヒリついた雰囲気、追い詰められた状態からの土壇場の逆転劇などが見たい方には全くオススメできません。
私の大好きだった「カイジ」の最終回がこんな映画とは、あまりに悲しいです。