朝が来るのレビュー・感想・評価
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親とは、子とは、家族とは、問いかけに心揺さぶられる
重い映画だ。
ドキュメンタリーと見紛うような演出。
観賞から2週間以上経っているのに、この映画のことが頭から離れない。間で他の映画も観たのに。
…河瀬直美、恐るべし!
特別養子縁組の制度を紹介すると共に、そこには二つの「対局の事情」が存在することを教えてくれている。
映画のストーリーは、産みの母を名乗る女が突然現れるサスペンスなのだが、養母(永作博美)と実母(蒔田彩珠)の両方の体験が丁寧に描かれていて、「対局の事情」を抱える二人の母親の両方に感情移入できるようになっている。
そして、時間と場所の組み替えが巧みで、上質のサスペンスでもある。
施設で、ある妊婦が取材を模したカメラに向かって、養子を待っている夫婦たちは唯一持てなかった子供を得ることで全てを手にするのだと、自分たちがそのお陰で助けられることは承知しながらも、不公平感を募らせている思いを吐露する。この涙のシーンは、子供を手放さなければならない彼女らにもやりきれない辛さがあることを示していて、胸が痛む。
育てられない親の子供を、産めない親の子供とする制度は合理的だが、人の心は割りきれない。だからこそ、浅田美代子演じる団体の主催者は、可能な限りの配慮をしつつ厳しいルールを課しているのだろう。
井浦新が無精子症と判明した夫の苦しみをにじませる。
特別養子縁組のセミナーで「来て良かった」と小さく呟く彼の表情と口調に、一縷の希望が見えた安堵が感じ取れる。
永作博美は、空港のロビーで泣き崩れる夫を抱き支える姿、赤ん坊を受け取って産みの親と面会したときのその産みの親である少女に向ける眼差し、友達を傷つけたと思い込んで謝る息子にかけるいたわりの言葉などで、深い優しさと包容力をみせる。
そして一転、産みの親を名乗る女に対して真実を見極めようと投げかける涙を浮かべた視線には、家族を守るという強い決意が表れている。
そして何より、蒔田彩珠が光っている。
なす術なく転落の運命を辿っていく少女の危うい姿が切ない。
純粋で、素直で、真面目な少女にはあまりにも過酷で、娘を持つ親である自分はいたたまれなかった。
最も蒔田彩珠に寄り添うべき母親(中島ひろ子)が彼女を責めるのだが、その心理は理解できる。理解はできるが、あの母親次第で少女の運命は全く違ったものになっていただろうと思うと、悲しい。
親とは、子供を信じて励まし支えていかなければならないのだが、思いどおりなならない苛立ち、無視できない世間体などから、いつの間にか親が子供を追い詰めてしまう現実。親である自分に「お前はどうだ?」と突き刺さる。
子供を信じ続けた永作博美と、蒔田彩珠を押さえつけようとした中島ひろ子は、母親像の対として描かれているようだ。
永作博美が蒔田彩珠を探し遂に見つけるラストのシークェンスは、この養母のできすぎなほど天晴れな行動に涙を禁じ得ない。
孤独で過酷な6年間を生きてきた少女に「朝が来る」のかもしれないと祈りに近い思いが込み上げる。
そして、エンドロールの最後、たった一言の台詞がとてつもない救いを示してくれるのだ。
…河瀬直美、恐るべし!
ドキュメンタリーのよう
良い映画でした
先日TBSラジオの番組で河瀬監督が映画の内容や特別養子縁組という制度の話をされているのを聞いたのをきっかけに映画を観に行ってきました。
子供を手放さざるをえない親が抱える問題や気持ちの葛藤。
子供を養子として迎える側の夫婦が持つ事情や悩み。
私自身3人の子供に恵まれ何の問題もなく親になりましたが、世の中には子供を授かるという事に関して様々な事情をもつ方がいるという事をリアルに感じ、自分の置かれた日常に感謝しなければいけないと考えさせられました。
好きな人の子供を授かり、それが望まない妊娠の場合、悩み、傷つき、責任を一番背負わざる得ないのは結局女性であるという現実。
こうした心の傷みを抱えなければならない人を少しでも減らす為に重要なのはやはり若者への教育だと思います。
性教育をはじめ異性を思いやる心の教育に目を向けてもらいたい。
若者をはじめできるだけ多くの人に観てもらいたい映画です。
良い映画を制作して下さった河瀬監督とキャスト・スタッフの方々に感謝です。
いい映画だった。 河瀬直美さんの作品を見たのは初めてだけど、ドキュ...
傑作で間違いない!!
うーん
二人の母親
最後まで席を立たないでください
河瀬監督らしく光を使った絵作りが本当にうまい、実にきれいです。
二つの視点を交錯させるような作りなのですが、ぶつ切りにせず流れるような転換はとても自然で心地良い。監督ならではだと思います。
そして役者陣は実に良い芝居でしたね。
井浦新が居酒屋で同僚と話をする場面があるのですが、個人的にとても印象的でした。
この時の表情が実に良く、やるせない気持ちがとても伝わってきます。ちょっと見てて辛いくらい。
ここ実際に酒飲んでから撮影したようで、ちょっと驚きました。
蒔田彩珠は芝居もだけど、目の描き方が良かった。
何気に浅田美代子も良いアクセントでしたね。
それとやはり朝斗、彼の目線や眼差が良い演出ですね。そこから始まり、そこに帰っていくかのようでした。
物語は特別養子縁組を軸に、生みの親と育ての親を描いた作品。
この両面の描き方がとても丁寧で、どちらも自分の事のように寄り添ってくるんです。
歌ですが段々と繋がっていく構成も良かったです。最後はちゃんと届くのが嬉しいですね。
そして、エンドロールは最後の最後まで席を立たないでください。
やっと訪れた朝の「光」があるんです。
終焉したのに私は少し席を立てなくなりました。
心にずっと染み入る、本当に素晴らしい作品でした。
やや長尺
ドキュメント的な描写が好みの分かれる所ではある作品です。
以前から興味のあった作品で、ポスタービジュアルのやさぐれた感じの茶髪の女性の後ろ姿が何処かホラーチックでどんな内容だろうと興味津々で観賞しました。
で、感想はと言うと、ホラーでは無かったw
観応えはありますが、重い。またどんよりする。
ドキュメント形式の描写が余計に重さをリアルに感じる拍車をかけます。
永作博美さんと井浦新さんが演じる夫婦が抱える問題に、子供を出産するが、育てることを断念せざるおえない女の子のお話なんですが、どうにも切ない。
育ての親の苦悩もさる事ながら、産みの親となる少女の苦悩と葛藤、不幸が重いんですよね。
また育ての親の物語かと思えば、どちらかと言うと産みの親の女の子の物語の側面が強い。
割合で言えば6:4ぐらいかな。
冒頭から何処か怪しげな雰囲気が漂い、幸せそうな家庭環境が余計にその雰囲気を増幅させる。
幸せの家庭を壊すのはいつも他愛もない事からが世の常ではあるが、この作品は割といろんなことが「伏線か?」と思わせといてスカされるw
その辺りが結構絶妙ですが、回り道と言えば回り道ですが、そういう伏線張りは嫌いじゃ無い。
でもそれが多いとちょっと中弛みを感じます。
伏線張りは…少し多いかな。
インタビュー形式的な描写で「ザ・ノンフィクション」みたいな感じで、それが結構多い。全体のバランスから考えるとちょっと多すぎる感じがして、肝心な部分の描写が少なくなってる気がします。
社会派ミステリーと言うジャンルに位置付けされてますが、ミステリーとしての側面を過剰に醸し出している所も感じる。
永作博美さんと井浦新さんを前にした茶髪のやさぐれた感じのポスターが正にそれ。
でも、そこになんとなく牽かれて観賞したので、ここは好みの分かれる所でしょうか?
また、特別養子縁組の制度について描かれてますが、ドキュメント性を出すのであれば、もう少し金銭的な事を含めて詳細を描いても良かったのではと思います。
永作さんと井浦さんの演技力は今更ながらに言わずもがななんですが、ひかり役の蒔田彩珠さんが上手い。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の加代とは全然違う役柄ですが、最初気付かなかった。
それぐらい全然違いますが上手いし、良い役者さんになりました。
そんな彼女が演じるひかりは不器用に挫折もしながら、それでもなんとか踏み止まろうとする姿が健気。
いろんな事が彼女に降りかかり、その事でゆっくりと転がる様に落ちていく。
彼女が悪くない訳では無いんですが、そんな綻びから付け込まれる様にして、綻びが大きくなっていく。
母親のちょっとした無関心と見栄が余計に腹立ちますがw、感情が優先して、そこから逃げ出したい気持ちも凄く分かる。
様々な人に出会い、優しさに触れ、いろんな事にも傷付く。
それが人生だと言えば、そうなのかも知れないが、それをまだ10代の女の子に背負わすのは観ていても酷。
その辺りを丹念に描いています。
弱い者が様々な事に叩かれる姿は正直見たくないし、映画の中とは言え、立ち直ってもらいたい。
蒔田彩珠さんの上手さが際立ちます。
子供を授かりたくても授かれない苦悩も切ないし、そこに特別養子縁組に至る決断も切ない。
でも、養子とした子供に目一杯の愛情を注いでいる姿が微笑ましい。
意図せず授かった子供であり、周囲との協調を図る為、泣く泣くで手放したが、そこから転がる様に落ちていくが、唯一の救いは悪になれなかった事。
その事がラストにも生きてきます。
重い作品で、中々の尺ですが、見応えもあります。
ですが、ドキュメント的な描写は好みの分かれる所。
興味があれば如何でしょうか?
河瀬直美円熟期
女性の監督ならではの作品
大我と小我の物語
自然の命が大我、個の移ろいが小我。
この世は大我と小我の螺旋の中で時を刻む。
特別養子縁組という視点で、このテーマを浮かび上がらせている河瀬監督の映像作家としての手腕は健在だ。
自然の四季を美しく動的に切り取り、人もまた大きな自然の一部であることを、静かにも強く描き出し心を浄化してくれる。
大我は小我を包含することを示唆する幾つかの台詞の中でも、「親が産まれてくる子を選ぶのではなく、子が親を選ぶ」という言葉が心に残り、身近な日常を振り返りたくなる、映画史に深く刻まれる作品だ。
消せない想い
子供ができずに養子を取った夫婦だが、その子の生みの親だと名乗る人物が突如現れ、子供を返すか或いは…という展開になる物語。
序盤、子供ができない夫婦間の苦悩が描かれる。
空港での夫の本音が出るシーンは胸に来るものがある。
そして偶然、養子縁組というものがあることを知った二人が、養子をとることとする。
生みの親は14歳の中学生。ちらっと登場するだけだが、きっと彼女にもここに来るまで壮絶な人生があったんだろうなぁ~なんて考えていたら、寧ろここから映画は彼女の物語がメインとなる。
真面目そうな女子中学生。こうなっていなかったら、ごくごく普通の幸せな人生を送っていたであろう彼女。妊娠のきっかけも、中学生ながら純愛の末だったから、尚のこと難しい。
まだ十代だというのに波乱万丈すぎる人生の末、変わり果てた姿で夫婦の前に現れた理由とは?
観ている側にも重くズッシリとのしかかってくる物語だった。
色々考えさせられる作品だが、夫婦や少女の物語は勿論、個人的に気になったのは養子団体について。ある夫婦の質問に対して、そこだけは認められないと回答する代表の女性。
…難しいですね、その方が経済的にも安定するし、考えようではその方が子供もより幸せになれるのでは?とも思いつつ、団体側としてはある種の「覚悟」も見たかったのかな。
子供が欲しい大人の為ではなく、あくまで子供が親を見つけるのが目標ですからね。
命を預けるには、並大抵の覚悟しか見られないようではダメですもんね。
そしてあの手紙。
当時14歳の彼女がどのような思いで消したのかと思うと、胸が張り裂けそうになる。
親子間での悲しい出来事が多く起こっている昨今の日本。
多くの方に観てほしいと思える作品だった。
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